球磨川の恵みを珠玉の逸品に変える職人たちの地域ブランド「球磨川アーティザンズ」。25年の海外生活を経て地元・人吉に還ってきた創始者 田畑 奈津が見据える地域の未来像とは
最上川・富士川と並ぶ日本三大急流の一つ、清流・球磨川。
熊本県を流れる最も大きな河川で、古くから人吉球磨に生きる人たちの心の拠り所となってきました。そして今、そんな球磨川で育まれた自然の恵みを宝石のように磨き上げ、世界へと発信するプロジェクトがあります。
地域総合ブランド・球磨川アーティザンズ。
英語で「職人」を意味するアーティザンズという名を冠したブランドで、自分たちの想いや地域の恵みを多くの人に届けたいという願いを込めてロゴデザインには球磨川くだりに用いられる和舟が描かれています。
そして2019年にこの組織を立ち上げたのが、球磨川アーティザンズ代表の田畑 奈津さん。
アメリカで公認会計士として25年もの間グローバルビジネスに携わってきた異色の経歴をもつ田畑さんが、なぜ生まれ故郷の人吉に戻り、地域の魅力を発信しようと思ったのか。
今回は球磨川アーティザンズのアイテムと白岳しろを合わせていただきながら、その背景にある想いや球磨川の流れの先に田畑さんが見据えるビジョンについて伺います。
球磨川の流れが生みだす逸品たち
-田畑さん、アーティザンズの商品って宝石みたいに綺麗ですね
田畑/あら、ありがとう!うちのアイテムは全て人吉球磨の農産品を原料に使ってるし、デザインにもこだわっててね。そうだ!せっかくだから、まず人気急上昇中のクラフトコーラから飲んでもらいましょうか。
-さっぱりとしたジンジャーの香りとコクのある甘さがマッチして美味しい…
田畑/スパイスやバニラビーンズの香りがすごくいいよね。割り方はシロップ1に対してソーダ4~5がおすすめで、レモンや柑橘を合わせても風味が変わって美味しいのよ。
ちなみに、このコーラに白岳しろをお好みで注いであげると…
田畑/球磨川アーティザンズ特製「ペールクラフトコークしろハイボール」の完成。ねっ、すごく簡単でしょ。
-うわぁ…クラフトコーラ独特の風味があわさって洋酒のような香りが新鮮です!こんな簡単にカクテルが出来るんですね
田畑/うちは素材の自然な甘みに加えて、加工でしっかりと甘さを引き出すからカクテルやジュースにしても負けないの。お次はこの2つを試してもらおうかな。
田畑/これはコンフィチュールといって、ジャムとは少し違うのね。ジャムは果肉ごと砂糖と煮込むんだけど、コンフィチュールは煮出した果汁に果肉を漬け込む製法だから素材の食感がありのまま楽しめるの。
まず、トリプルベリーのコンフィチュールをカクテルグラスに入れて
田畑/その上から白桃・黄桃とトンカ豆のコンフィチュールをミックスしたかき氷を注ぐ
田畑/最後にしろをお好みで入れてあげると…
田畑/「白岳しろのコンフィチュールカクテル」の出来上がり。これも本当に簡単だし、とても綺麗でしょ。
-これはイメージしていた以上に洗練された甘みで、果肉の食感も絶妙…なんでこんなに口当たりが上品なんですか
田畑/まず、原料にいい素材を使ってる事が大きいかな。例えば白桃・黄桃とトンカ豆のコンフィチュールには球磨郡錦町の兼田果樹園さんがこだわり抜いて作った桃を使ってるんだけど、本当に甘くて美味しいのよ。
あとは素材の魅力を最大限引き出すために食品添加物や着色料も一切使ってないし、加工方法についてもかなり研究を重ねたよね。いい素材をより美味しく加工することが、私たちの付加価値だと思ってるから。
田畑/はい。お口直しにこちらもどうぞ!
田畑/これはかき氷だけど、シロップに梅と日本蜜蜂のはちみつのコーディアルをかけてみた。人吉球磨産の梅を和三盆・キビ砂糖・氷砂糖に漬け込んでエキスを出してるから、梅の酸味と甘さのバランスが絶妙でしょ。
-これは参りました。梅ってこんなにコク深くて甘い口当たりになるんですね…
田畑/これも原料の梅の良さと和三盆で漬け込んだ加工の良さが合わさったアーティザンズ自慢の人気商品。フルーツにひとたらししても美味しいから、ぜひ試してみて。
世界を知って、人吉に帰ってきた理由
-田畑さんはキャリアの大半を会計士としてアメリカで過ごされたそうですね
田畑/私は生まれも育ちも人吉だけど、もともと留学経験もあって英語にあまり抵抗がなかったし、自分のキャリアについて考えたときに当時の日本はまだ女性が仕事をするってことに開かれてない部分もあったからね。
日本で在職中に一念発起して、アメリカで挑戦してみようと思ったの。
そこから大学で会計学を勉強してね。日本人がアメリカで戦おうと思ったら、やっぱり母国語じゃない英語じゃなくて万国共通の「数字」で勝負するべきだって考えたのがきっかけだったかな。
田畑/アメリカの実力主義で自分の力を試せる環境が、私のオープンで負けず嫌いな性格と合ってたみたい。
25年間会計士としてアメリカの監査法人と現地企業で働いたけど、本当に毎日が充実してたもん。仕事は基本的に激務だし、国をまたぐ出張なんかも多くて大変だったけど、それでも楽しくバリバリ働いてたから(笑)。
-そんなに充実していたアメリカから、人吉に帰ってきた理由って…
田畑/父が亡くなったことが大きかったよね。配置転換の話も出てたし、このタイミングで人吉にいる母のそばで一緒に暮らせたら楽しいかなって。
初めは東京で仕事も探そうかなって思ってたんだけど、25年も海外にいたからか改めて触れる人吉球磨の自然に感動しちゃって。この感動は海外に長くいた人じゃないとちょっとわからないかもしれないね。
同時に、こんなにも豊かな自然が手つかずのままになっていることに課題感をもったのがアーティザンズを作ろうと思ったきっかけ。日本の山並みや田園風景って、世界からみても本当に希少な資源なんだから。
球磨川アーティザンズに込めた想い
-2019年に球磨川アーティザンズを設立された当時の想いについて教えてください
田畑/ロゴにも採用してる和舟に乗って、上流から下流まで球磨川をくだるように人吉球磨の美味しい恵みを集めていけたらいいなって。人吉球磨は豊かな農産物に溢れてるから、その実りを一つ残さず集めて全世界に伝えたいって当時から燃えてた気がする。
設立から3年間で、いろんな原料を使った20種類以上のアイテムを展開できてるからスタート時の理想には少しずつ近づけてるんじゃないかな。
あと、このプロジェクトは本当に周りの人たちに恵まれたのよ。
田畑/まず、一緒にプロジェクトを始めた人吉のお茶専門店・立山商店の立山まき子さん。立山商店さんはnoteでも紹介してたよね。
いま立山商店さんでもアーティザンズのアイテムを扱ってもらってるし、まき子さんには個人的にも本当に良くしてもらっててね。このプロジェクト一緒に立ち上げたという意味で一番の理解者であり同志かな。
田畑/そして、アーティザンズの商品加工を一手に引き受けていただいている秋山製菓舗の秋山さんご夫婦。うちの商品を美味しいといって貰えるのも二人の加工技術あってこそ。
秋山製菓舗さんはもともとお饅頭を作っていた和菓子店なんだけど、令和2年7月豪雨で機械設備をなくされてしまったのよ。でも、そこから縁あっていま同じ志をもってプロジェクトに取り組んでいただいてるの。
こんな素敵な人たちに囲まれてる事が、球磨川アーティザンズの強みかもしれないよね。
-田畑さんが今後目指していく方向について教えてください
田畑/これは立ち上げた時から胸に秘めていたミッションなんだけど、最終的には人吉球磨を若い人たちが集まる地域にしていきたい。
いま日本全国で地方から若い人が都会に出る流れがあるじゃない。でも、この活動を通じて待遇や条件がいい仕事を人吉球磨に創出できれば、若い人たちが地元に残りたくなるいいサイクルが出来ると思うのよ。
アメリカに行って土地固有の歴史や文化って本当に大事だなって感じたの。人吉球磨も旧相良藩時代から700年以上の歴史や文化をもつ地域だから、その素晴らしさをなんとか後世に遺していかないと。
田畑/だから、アーティサンズは食品加工だけにこだわらなくてもいいの。人吉球磨に一人でも多くの活気ある若者が集まってくれるのなら、IT業でもいいしなんならお風呂屋さんとかでもいいと思っているんだから。
私の他人に対する最高の褒め言葉は「インスピレーションを感じる」なんだけど、色んな若い人と接点を持つことで、わたしが想像力を掻き立てられるような素敵な人材を一人でも多く生み出せたら最高かな。
田畑/球磨川もその流れの先には、大きな海が広がってるよね。だからこのプロジェクトも「活気溢れる若者が集まる人吉球磨を創る」っていうミッションを追いかけながら、いつか大海に飛び出す日を夢見てる。
そのためには白岳さんのような地域で歴史を持つ企業の協力も大切だから、これからも色んな場面で一緒に人吉球磨を盛り上げていきましょうよ!
-田畑さん、今日はありがとうございました!
田畑/これからもどんどん新しい商品を作る予定だし、イベントなんかにも積極的に参加するからまた遊びに来て!待ってるからね。