創業145年のお茶専門店が淹れる“みどり”と創業122年の蔵元が造る“しろ”が出会った瞬間、とてつもない「お茶割り焼酎」が誕生してしまった
本日、5月4日はみどりの日。
普段しろを推している私たちとして、何かみどりとコラボ出来ないか。そう思って向かったのは、城下町・人吉市の面影がそのまま残る鍛冶屋町通り。
旧相良藩の時代から鍛冶の名工たちが軒を連ねたこの通りで、140年以上乾物や日本茶を商い、現在もお茶の真髄を伝え続ける老舗があります。
明治10年(1877年)創業・立山商店。
熊本の良質な茶葉を中心に買い付けを行い、昔ながらの伝統製法を守りながら作ったお茶で人吉をはじめ全国のお客様を魅了するお茶の専門店です。
今回は5代目当主の立山 茂(たてやま しげる)さんに時代と共に変化してきたお茶の在り方についてうかがいながら、立山商店のお茶と白岳しろで作った究極の「お茶割り焼酎」を振る舞っていただきました。
お茶の本質を伝える使命
新茶のよさ、番茶のよさ
-立山さん、本日はよろしくお願い致します
立山/いい時期に来てくださいましたね。5月4日はみどりの日ですが、5月2日も八十八夜といってお茶屋にとっては一番大切な日なんです。この頃に出来たお茶を飲むと長生きできるとして昔から重宝されてきたんですよ。
では、早速うちの番茶から飲んでいただきましょうか。
-お、美味しい。もの凄くふくよかな味ですね
立山/世の中ではお茶といえば新茶というイメージがありますが、番茶には番茶の美味しさがあります。新茶にはテアニンという旨味成分が多く含まれる一方で、番茶には苦み成分のカテキンが多く含まれていて、これも1つのお茶の味なんですよ。人間と同じでお茶にも個性があるんです。
立山/今飲んでいただいた番茶、美味しいでしょう。お茶を扱っていると「神様って平等だな」って思います。どんなお茶にも必ず良いところを与えてくださっている。逆に完璧なお茶なんて無いからこそ、その個性を見極めてお客様に提供する僕たち専門店の仕事が必要なんだと思います。
変わるお茶の在り方と「体験」の価値
立山/僕は28歳まで東京で働いていて、いざ継ぐとなった時に改めて家業を見つめ直しました。色々勉強しましたが、その時々の一番良いお茶を提供できる専門店はまだまだ大きな可能性を秘めていると感じましたね。
そんな僕が家業を継いだ時代からすると、お茶は大きな転換点にあります。
昔ながらのゆっくりお茶を淹れるスタイルから、簡便さを重視するペットボトルのお茶が主流になってきました。その中で我々専門店が提供できる価値ってなんだろうと突き詰めて考えたら、それは「体験」だったんです。
立山/昔、お茶を飲まない理由を調べたアンケートがありました。1位はどんな理由だったと思います?なんと…「特に理由はない」だったんですよ。
その結果を見て、みんなお茶を敬遠しているのではなく触れたことが無いのだと思いました。なので、うちではお茶の販売以外に着付け体験、生け花体験、お茶のテイスティングなど様々な体験教室も運営しています。
旅先ってちょっとテンションも上がるじゃないですか。旅行で人吉に来てくれた人達にお茶文化を体験いただくことで、もっとお茶に触れてみたいという人を少しでも増やしていけたらいいですよね。
日本茶インストラクター・立山 茂
「楽しいお茶」を伝える
-立山さんは「日本茶インストラクター」でもいらっしゃいますが、具体的にはどのような活動をされてきたんですか?
立山/まず、日本茶インストラクターはNPO法人日本茶インストラクター協会の認定資格です。資格者たちの活躍の場は様々ですが、わたし個人はライフワークとして教育の場を中心に日本茶の普及に取り組んできました。
カテキンズというコンビを作って漫才を披露したり、中学生向けの講座としてマイペットボトル作りに取り組んだり、それはもう色々やりましたね。
日本茶インストラクターが互いの技量を競う「世界お茶まつりインストラクションコンクール」では、南九州代表に2度選出された事もあるんですよ。
立山/何かを伝える上では、「楽しい」ことが1番大事だと思っています。
楽しいからこそ、目が真剣になるんですよ。そのために漫才のオチにもお茶を絡めたり、受講する中学生たち自らアイデアを出してもらったりと1つの授業にも時間をかけて創意工夫を凝らしています。
やっぱり大切なのは「体験」
立山/インストラクターとしても大切にしているのは、やはり「体験」です。
人間聞いたことは心に残らなくても、自分でやると絶対忘れないんです。
授業内容も茶器の使い方や水出しの仕方など基本的な部分から「お姑さんの前で恥をかかないお茶の淹れ方」まで、幅広いテーマで手を動かしながら学んでもらっています。中学生たちが茶葉をブレンドしたマイペットボトルも、プロの検定と同じ方法で自ら味を見てもらっているんですよ。
私の中で優秀なインストラクターの定義は「 1グラムでもお茶の消費量をあげた」人物です。頭でっかちではなく、目の前の人がお茶を思わず手に取ってしまうような感動する授業を今後もお届けできれば最高ですね。
お茶のプロが作る究極の「お茶割り焼酎」
立山/さあ、お茶も焼酎も飲んでみないことにはわかりませんよ!
事前にお茶割り焼酎用に3種類のお茶を淹れておきました。左からほうじ茶、番茶、玉緑茶の順に並んでます。
この3つのお茶で今日はお茶割り焼酎を作っていきましょう。
-ちなみに「お茶割り焼酎」が正式名称なんですか?
立山/これは簡単なことで、お茶屋さんが作るとお茶割り焼酎、焼酎屋さんが作ると焼酎のお茶割りと呼ぶことが多いんです(笑)。今日はお茶のお店で作るので、お茶割り焼酎と呼ばせてください!
玉緑茶割りからスタート
立山/まずは玉緑茶割りから始めましょうか。
玉緑茶というと聞き馴染みがないかもしれませんが、熊本が日本一の生産量を誇るお茶でグリ茶とも呼ばれています。煎茶と違って、まが玉のような形状をしているのが特徴ですね。このみどりがなんとも綺麗でしょう?
-すごくサッパリしていて、洗練された味わい。これ大好きです!
立山/基本的にはみなさんがいつも飲まれている煎茶と葉は同じですが、最後の仕上げが少し違います。玉緑茶は水出しとも相性抜群ですね。うちのお店で出している中でも、代表的なお茶の1つですよ。
続いて、番茶割り
立山/次は、番茶割りを飲んでみましょう。初めに飲んでいただいたうちの番茶ですが、これは玉緑茶と違って色は黄色です。さあ飲んでみてください。
-さっきの玉緑茶と違って、お茶の深みが全面に出ますね!
立山/この番茶はうちのお茶の中でも1番出ているお茶で、オールラウンドに活躍してくれますね。贈答用のお茶も良いものが多いですが、うちの番茶も日常で飲むお茶として長年地域で愛されてるんですよ。
最後はほうじ茶割り
立山/ほうじ茶も焙じたお茶の香りとしろの淡い味わいがマッチする飲み方です。九州は割とパンチがあるお茶が好まれる一方で、ほうじ茶は関東を中心に人気のお茶ですね。
-ほうじ茶がふわっと香った後にやってくる焼酎の後味がたまらないですね!
立山/うん。あらためて飲むとほうじ茶割りも美味しい。先に飲んだ2つとは少し風味が異なりますが、さり気なく焼酎の風味を引き立たせてくれる組み合わせだと思いますね。
お茶と本格米焼酎
お茶割り焼酎を作るポイント
-立山さん、3つのお茶割焼酎全て最高でした!ちなみにお茶割り焼酎を造る時のポイントってあるんですか?
立山/美味しいお茶割焼酎を作るポイントは3つです。
1つ目はお茶を濃い目に淹れること。
焼酎と合わせていくので、風味が負けないように普通にお茶として飲む時以上に濃い目に作っておくと割った時にちょうどいい濃さになります。ちなみに、お茶は冷たくても熱くてもどちらでも合いますよ。
2つ目は割り方で、焼酎6に対してお茶4の割合で作ること。
今まで色々な研究会やイベントでお茶割り焼酎を出してきましたが、この6:4のブレンドがお茶割り焼酎の黄金比率だと思います。
そして最後は、米焼酎で作ることですね。
これも県の研究会などで各原料の焼酎でお茶割り焼酎を作ったのですが、会員からの味の評価が一番高かったのが米焼酎でした。お茶漬けや茶がゆのように米とお茶の相性はとても良いのです。
おそらくお茶のほのかな香りや風味を感じ取るためには、焼酎の原料もクセのないものがベターなんでしょうね。今回持って来ていただいた白岳しろのようなスッキリとした米焼酎は特に合うと思います。
あるべきものを、あるべき姿で
-立山さん、今回は貴重なお話から美味しいお茶割焼酎まで本当にありがとうございました
立山/遣唐使が中国から日本にお茶を伝えたといわれていますが、お茶とお酒って長い歴史の中で深く結びついてるんですよね。
吾妻鏡(あずまかがみ)という鎌倉時代の歴史書には、お酒が大好物だった将軍源実朝が二日酔いで苦しんでいた時、栄西という僧が茶を献じて、実朝の二日酔いがすっかり回復したという逸話も残っているんですよ。
立山/だから、時代のトレンドがいくら変わったとしても、歴史を通じて受け継がれてきたお茶のあるべき姿を見失うこと無く、そのまま後世に伝えていくことも140年続くお茶専門店の使命の1つだと思っています。
最近好きな言葉の1つでもある「大事なものは目には見えない」という考え方を大事にしながら、あるべきものをあるべき姿で伝えていくことを今後も地道に継続していきたいですね。
これからも、たまにはお茶の一杯でも飲みに来てくださいよ!
-立山さん、今回は本当にありがとうございました!