東京・檜原村「HINOKO TOKYO」。そこは舞い散る火の粉に夜空が紛れて、星の香りが立ち込める場所/and SHIRO#5
「今日は雲ひとつ無い晴天になりそうです」
そんな予報に背中を押されて。私はここへ、星に逢いにきた。
東京・檜原村「HINOKO TOKYO」
都心から車でわずか1時間半のところにある、森の小さなキャンプサイト。
ここでは季節が巡るたびに草木が色鮮やかにその表情を変えて、東京の里山にせっせと四季を運んでいる。
この日。もうすっかり開いた梅の花は、春の粧いで私を迎えてくれた。
今日は、ここで夜を越す。
久々に押し入れから引っ張り出したテントを広げて、星たちと静かに過ごすための居場所をいつも通り拵えていく。
汗がじわり滲んで、息が弾む。少しずつ頭がからっぽになる。
こんな心地よさを知ってしまったから、多分またここに帰って来たんだ。
私の胸が小さく高鳴るたび。
ペグはいつもより深く沈んでくれることを知ってしまったから。
ゆっくり、ゆっくりとお気に入りで埋め尽くしていく秘密の基地。
PM16:30。まだ星は見えない。
ずっとこうしていたいけど。
山でつける一息は、意外と束の間だ。
やがて陽が落ちて、暗がりが辺りを包みはじめる。そうなる前に星を迎える準備に取り掛かりはじめる。
山に籠もる時は、とにかく丁寧でいたい。
いつも何かに追いかけられている日常で、忘れたふりをしてること。そんなめんどくささと真っ直ぐに向き合っていたい。
うん、我ながら美味しい。
一日の疲れも、毎日の迷いも。この一口で帳消しにしてしまえる自分を、今日だけは大目に見てあげよう。
行きがけに見つけた、星空っぽいお酒も案外悪くない。
というか、結構好きかもしれない。
本当にこんな華やかな香りがするのかなって、空を見上げる。
PM19:10。今度こそ星が出ていた。
なんで星を見に来たのかは、もう忘れた。
日々の捌け口でもないし、流行りでもない。ただ今日の夜気に身を委ねて、この時をじんわり飲みほしてみたかった。
はぜる薪の音と星空に身を委せて、ただまどろんでいたかった。
こんなにたおやかで優しい灯りを独り占めできる夜は、もう二度とやってこないかもしれないから。
いくら焦がれても眺めるしか出来ない。それは、ちょっともどかしい。
あんなにたくさんあるんだから、一つくらい掴めたっていいのに。
まあいいか。
私はいま、たしかに星を手にしている。
はるか遠くで瞬くあの香りを、私だけが知ってる。
心をふと軽くしてくれた、この甘いひとときを私はきっと覚えてる。
HINOKO TOKYO。
火の粉が舞い散るたびに夜空が紛れる不思議な場所では、星の香りがあたりを包んで、月が遠くでこちらを眺める。
明日、昂ぶる火も鎮まって星々もその灯を落したら、また素知らぬ顔で日常へと舞い戻っていく。
そして、雲がその姿を隠したとき。またここに帰ってこよう。
星たちが残した、甘い香りを手ががりに。
Creator&Model
MOVIE
HINOKO TOKYO
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