東京 高円寺「小杉湯」。日常に小さな幸せを添える昔ながらの銭湯が、形を変えながらもこの場所にあり続ける意味/and SHIRO#4
ゆったりとしたスウェットがやけに馴染む街、東京・高円寺。
昔ながらの人情あふれる商店街から、尖りに尖ったサブカルチャーまで。
あらゆる文化を受け入れながら独自の進化を遂げるこの街の中心に、ここ高円寺で90年近く愛されてきた銭湯・小杉湯はあります。
目まぐるしく移り変わる時代の中にあっても、まるで御神木のようにこの場所にあり続け、街と人を見守ってきた小杉湯。
小杉湯を求め、この街へと越して来たひと
この場所に救われたと感じてくれたひと
今日も決まった時間に、暖簾を潜るあのひと
銭湯という場を日常へと接続し、そんな人たちの暮らしに小さな幸せを灯していく営みを、小杉湯では「ケの日のハレ」として大切にしています。
お気に入りの下駄箱を開くと、そこにはいつもの番台。
創業当時から手作りの笑顔で浴客を迎え、小杉湯が大事にしてきた人のつながりをゆっくりと育んできたのもこの場所です。
この日、番台には三代目の平松 佑介さんが座っていました。
これまでの銭湯には馴染みの無かった新しい切り口で、昔ながらの銭湯の良さを守ろうとする平松さん。
ここで生まれ、街に変わらず銭湯がある意味を肌で感じてきたからこそ、他の誰より小杉湯を続けていくことにこだわるといいます。
先代から受けとった襷(たすき)を子どもたちへと繋ぎたい。
次の世代に続く線を描くために、自らが果たすべき役割を小さな点になぞらえ、日々その点を打ち続けていると教えてくれました。
そんな小杉湯をはじめとする街の公衆浴場は、子どもから大人まであらゆる世代が集まれる憩いの場でもあります。
小杉湯の創始者は、そうした全ての世代に自分たちの想いを知ってもらえるよう、こんな優しい言葉を遺しました。
「きれいで、清潔で、きもちのいい」
小杉湯がお客さまに届けたい空間や体験を詰め込んだ、単純明快で、真っ直ぐで、しなやかな語感。
89年間、ここで働く人々の指針となってきた小杉湯の哲学です。
浴場に張り詰める、柔らかな緊張感。
タイルや鏡はもちろん、蛇口の一本一本に至るまで。
この空間にあるもの全ては鳥肌が立つほどに磨き上げられ、その静謐な空気と身体を包みこむ湯の温かさで、人々の日常を癒やしてきました。
ケの日だからこそ感じることのできる、ハレのかたち。
小杉湯が届けつづけてきた温かさの真ん中には、変わらないために変わり続ける覚悟と創業者から代々伝えられてきた哲学を一途に守り続ける老舗の矜持が横たわっています。
そして、湯あがり。
静かに自分を取り戻しながら、ゆっくり日常へと還っていく時間です。
いつもと違う今日の終わりには、もちろんいつもと同じお酒を。
まだほんのり火照った体をふと駆け抜けていったのは、冷たく弾ける炭酸の泡と満たされていた一日のほのかな記憶たち。
しっとり香る米の風味がなんとも心地いい、美味しいハレの空間です。
うん、今日も悪くはなかった。
そんなことに思い入りながら、昨日と同じ木札を込める帰り際。
暖簾をくぐった、その途端に。
相変わらず騒がしい日常に引き戻されながら、体の芯にわずかに残る温かさを確かめては、また明日へと歩きだしていきます。
東京・高円寺「小杉湯」
この街と人が好きだから、この場所にあり続けたいから、きもちのいいお湯と笑顔は誰かの日常を今日も灯します。
かたわらに、いつものお酒を添えて。
Creator&Model
小杉湯
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