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標高630mの茶畑で生みだされる天空の和紅茶。水俣の山々から吹く風が育てた無農薬のこだわり茶葉で究極の紅茶割を淹れてみた

インドのダージリン、スリランカのウバ、中国のキーマン(祁門)。

これら世界三大紅茶の産地では、昔から地域の風土を存分に活かすことで唯一無二の香りや味わいの茶葉を生み出してきました。

そして今、ここ日本にも生まれ育った土地の魅力を自らの和紅茶ブランドに込めて、世界へ発信しようと挑み続ける人物がいます。

PROFILE 天野 浩 AMANO HIROSHI
天の製茶園 代表取締役/祖父の代から続く茶園の3代目として就農し、体と心に優しいお茶作りを目指して全国でも注目の和紅茶を日夜手掛けている

熊本県の最南端・水俣市でこだわりの紅茶を作ってきた、天の製茶園。

標高630mの茶畑で無農薬・無化学肥料によって育てられたメインブランド「天の紅茶」は独特の深い味わいと爽やかな口当たりが特長で、最近ではこだわりの和紅茶として業界内でも高い評価を得ています。

そんな天野さんが大切にするのは、その土地特有の風味を追求すること。

土や水といった自然の恵みはもちろん、水俣の歴史を含めた産地の文脈を丸ごと味わって欲しいという想いから、茶葉の生育・加工だけでなく農場視察や茶摘み体験なども積極的に受け入れてきました。

地球上で飲まれるお茶の約7割を占めるという紅茶の世界において、日本産の茶葉には一体どんな可能性が秘められているのか。

今回は天野さんと一緒に茶畑や加工場を巡りながら、天の製茶園が手がける和紅茶づくりの奥深さを味わっていきたいと思います。

天空からの風に抱かれて

--こちらの茶畑は随分高いところにあるんですね

天野/そうですね。ここで大体標高630mくらいかな。

この辺は石飛(いしとび)という地区で、石を飛ばすほどの強い風が吹くことからその名が付けられたといいます。私の祖父を始めとする開拓団が70年以上前に入植してこの場所に茶畑を作ったんですよ。

風味って「風の味」と書きますけど、お茶を育てているとその意味がよくわかります。水俣湾から吹いてくる気持ちのいい風が、ここの茶葉たちに柔らかな味わいと香りを運んできてくれるんだなって。

天野/うちの茶畑では、主に在来種という種類のお茶を作ってきました。

挿し木で増やす一般的な品種に対して、タネから育てる在来種は一本ごとに木の大きさや葉っぱの香りも違うんです。その分育てるのは大変ですけど、土地の個性をしっかりと表現できるのが在来種の魅力なんですよね。

ここは高地なので大規模農業や機械の大型化、人員の大量投入というのはどうしても難しい。だからこそ石飛に昔から自生する茶葉のポテンシャルを引き出しながら、ここだけの味わいで勝負してみたいなと。

天野/あと、もう一つのこだわりが無農薬・無化学肥料による栽培です。

過去には水俣病のイメージから、商品に水俣と書いてあるだけで全く手に取って貰えなかった時代がありました。あまりに辛い体験ですが、安心・安全という天の製茶園の信念はそんな逆境の中から生まれたんですよ。

水俣に生きる農家として、単に美味しい茶葉を栽培するだけではいけないのかなって。生まれ育った環境を守りながら、自然と共存していけるような優しい農業を目指していくことが何よりも大事だと思ってます。

天野/そんな僕も学校を卒業して就農した当時は「今からは稼げる農業だ!」なんて息巻いてたんですけどね。

実際に働いてみた中で少しずつ現実的な課題がわかってきましたし、どんな状況でも自らの信じる道を邁進する父の背中を見て、自分も水俣だからこそできる紅茶づくりに懸けてみようと腹を括れたんです。

天野/みんなが似たような品種を作って小さな世界で競争するより、全国の生産者が理想のお茶を追い求めたほうが絶対に面白いじゃないですか。

だから均質化の流れには乗りたくないですし、一つのパイを誰かと取り合うようなこともしたくない。水俣の風土や歴史と自分たちの想いを掛け合わせた紅茶を純粋に楽しんで欲しいんですよ。

という訳で、次は茶葉を加工する様子を見ていただきましょうか。

ここにしかない和紅茶の香り

--こちらで先程の茶葉が紅茶になっていくんですね

天野/紅茶は茶葉の成分を酸化させて独特の香りや旨味を引き出す発酵茶なので、この加工場で水分量と発酵具合をコントロールしながら美味しい和紅茶に仕立てていきます。

まずは収穫した茶葉を一日ほど陰干しして、水分を抜いてあげるところから紅茶づくりはスタートです。

天野/それから揉捻(じゅうねん)機という機械で茶葉を揉み込んで、葉の中にある細胞組織を壊しながら発酵をうながしていきます。

この辺りから、少しずつお茶っぽい形になってきたでしょ?

天野/その後、茶葉に風を当てながら置いて発酵を進めると、こんな風に鮮やかな赤褐色になって紅茶の香りに近づいてくるんですよ。

この工程では発酵時間を細かく管理してベストな状態に仕上げることが大事なんですけど、最終的には自分の肌感覚が頼りですね。

天野/最後に茶葉を乾燥機へ投入して100℃近い温度で一気に水分を飛ばしながら、熱を加えて茶葉の発酵を止めていきます。

天野/こちらが乾燥を終えた茶葉です。

この葉を焙煎したら紅茶の完成ですが、水分が抜け切っていないと味がぼやけるので、茶葉の状態を見て乾燥時間も柔軟に変えます。

--かなり大変な作業ですね。なぜ、ここまで紅茶にこだわるんですか?

天野/うちも昔は緑茶だけを作っていた時期があったんですけどね。

高地はどうしても新茶の最盛期と収穫のタイミングが合わずに高値が付きづらかったり、当時は無農薬よりも見栄えの良さが重視されていたので、先代が思い切って和紅茶へのシフトを決意したんです。

ただ、昔から紅茶が苦手だった母がこの計画に大反対しましてね(笑)。
もし紅茶嫌いの自分でも美味しいと思える茶葉を作れたら挑戦していいという条件で、天の製茶園の紅茶づくりが始まったんですよ。

天野/厳しいハードルを超えるために父は毎日試行錯誤を繰り返しましたが、紅茶嫌いの母からはなかなかOKが出ません。

そんな中、通常よりも焙煎をかなり強めにかけてみたところ、これまでにないスッキリとした口当たりの紅茶が出来上がったんです。この洗練された紅茶を口にして、ついに母もOKを出したんですね。

調べてみると強い焙煎によってカフェインが飛んだおかげでクリアな味へと変化したようで、この時に完成したのが「天の紅茶」の原型なんですよ。

天野/あまりにスッキリしていて「こんなのは紅茶じゃない!」なんて声もありましたけど、父は毎日飲めるような生活に根ざした紅茶を作りたいと考えていたので、飲みやすい和紅茶づくりを追求し続けました。

その結果、開発から30年以上が経ったタイミングで天の紅茶が一気に全国で知られるようになったんです。

天野/色々な苦難がある中でも、その状況を前向きに捉えながらブレずに続けていればきっとチャンスは転がってるんですよね。

これからも私たちは水俣でしか生み出せない個性的な茶葉を作って、その魅力を引き出す紅茶づくりを愚直に続けていくつもりです。

美味しい紅茶割の淹れ方

--最後に美味しい紅茶割の淹れ方を教えていただけますか

天野/紅茶の淹れ方はあまり難しく考えなくて大丈夫ですよ。強いて言えば、和紅茶には軟水のほうが合うと思いますね。

今日はお酒と割るのでいつもより少し多めに茶葉を入れて、お湯は100度まで沸騰させたものを少し置いて98℃位になったらティーボットに注ぎます。

天野/2~3分すると浮いていた茶葉にお湯が浸透して下に沈み始めます。少しずつ茶葉が沈み始めたら飲み頃です。

紅茶を先に注いでお好みでしろを淹れたら完成。僕は出来るだけ茶葉の色や香りを楽しみたいので、少しだけ紅茶を多めにいれます。

天野/あっ、これめちゃくちゃ合いますね…。とても美味しい!

天の紅茶もしろもスッキリしているから、お互いを高め合ういい組み合わせですね。仕事が無かったらもっと飲みたいくらいですよ。

天野/水俣の和紅茶には、独特の「抜けの良さ」があるんですよね。

基本的に風味が良くて、飲んだ瞬間に衝撃が脳天を突き抜けていく感じと言うか。後を引かないんだけど、力強い余韻がしっかりと残るんです。

紅茶の世界では香りや風味の強さが注目されがちですけど、僕はこのくらい抜けの良いほうが毎日飲むには適していると思ってます。

天野/うちの天の紅茶も白岳しろも、相手を活かそうとする奥ゆかしさがある点がこの相性良さへとつながっているのかもしれませんね。

紅茶で焼酎を割る飲み方はもちろん美味しいですけど、お酒を飲む合間に紅茶を合わせていくスタイルも結構面白い気がしてます。

--天野さん、本日はありがとうございました!

天野/いま全国でも紅茶の産地としての水俣の知名度が上がっていて、専門店からの引き合いやコンテストでも高い評価を頂けるようになってきました。

その土地の原料を使って自分たちらしい商品で勝負することが出来ればこれから業界もさらに盛り上がっていくと信じてますので、今後も美味しくて安心・安全な和紅茶を作っていきたいと思います。

同じ熊本代表としてこれからも一緒に頑張りましょう!

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