「どうすれば米焼酎は海外でブレイクできるのか」。その謎を解明するため、我々調査隊は留学生たちに3種のしろを飲み比べてもらった
タイトルに書き尽くしましたが、今回のテーマは海外市場。
その中でも「もっと世界中でブレイクしたい…」という米焼酎の切なる思いから、記事をスタートしていきたいと思います。
まずは、こちらをご覧ください。
これは国税庁がリリースしている日本産酒類の輸出金額推移をまとめたグラフですが、このデータからは2つのことが見えてきます。
わかること① 日本のお酒は、海外で絶好調
2010年から日本産酒類の輸出は4倍以上伸長し、輸出額は1000億円を突破しました。
国が取り組む日本産酒類のブランディングも奏功して、実はいま海外では日本のお酒が広く楽しまれはじめているんです。
わかること② 一方で、焼酎は伸び悩み傾向
次は、品目別の変化をグラフにしました。
一目瞭然ですが、圧倒的な伸びを牽引しているのはウイスキーと日本酒。焼酎も伸びてはいるものの、他のお酒と比べると少し足踏み気味という印象は拭えませんね。
ちなみにこの歴然とした差を目の当たりにしたとき、マラソン大会で「一緒に走ろう!」と約束した友達がいつの間にか遠くへ消えてしまった悲しい光景がふと蘇りました。
なぜ、こんなに美味しい焼酎が世界で
ブレイクできていないのか
インターネットにはそれらしき理由が色々書いてありますが、どうも実感が沸かない。そんな時降りてきたのが、こんなアイデアです。
「海外留学生に米焼酎を飲んでもらって、直接聞いてみよう!」
マクロな視点だけではなく、目の前の一人と向き合うからこそ見えてくる海外進出へのヒントや糸口もあるかもしれない。
そんな仮説を検証するため、多くの留学生と接点を持つこの団体の助けを借りることにしました。
熊本大学 国際交流サークル「C3」
熊本大学の留学生と日本人学生で構成される、大学公認の国際交流サークル「C3(シースリー)」。この企画を打診したところ快諾いただき、二十歳以上のお酒大好きな有志たちが集まってくれました。
まずは、部長の樋口さんにC3の活動について聞いていきます。
-今日は突然のお願いにも関わらず、ご快諾ありがとうございます!C3は普段どんな活動をされているんですか
樋口/こちらこそ楽しい企画をありがとうございます。感染拡大以降はイベントが出来なかったので、今日はとても楽しみです。
C3は創設10年を迎えますが、留学生や熊本に住む海外の方々との交流を通じて、日本と海外双方の文化を楽しめるような活動を展開してきました。
樋口/留学生の国の料理をみんなで作ったり、BBQを企画したり、折り鶴を作ってみたりと活動は本当に様々ですね。他団体とのコラボレーション企画も数多く実施してますよ。
あとは、日本に来たばかりの留学生サポートも行っています。
樋口/留学生というと特別な気がしますけど、基本は僕たちと同じで異国で暮らすって最初はやっぱり不安なんです。入部のきっかけも、留学生同士のつながりを求めてSNSから応募してくるパターンが最近は多いですね。
そんな留学生たちをフォローして、日本のことをより好きになってもらうこともC3の大事な役割だと思って取り組んでいるんです。
次に留学生について教えてくれたのが、企画担当の児玉さん。
-児玉さん、やっぱり国際交流サークルって英語は必須なんですよね
児玉/話せるに越したことはないですが、日本語が得意な留学生も多いので必須では無いですよ。しかも留学生は勉強のために日本に来ているので、日本語で会話したがる人のほうが多いんです(笑)。
だから、日本語でも充分にコミュニケーションは成立しますし、少しずつ外国語を習得したい人にとってC3はぴったりの環境じゃないでしょうか。
個人的には、言語より「笑顔」のほうが国際交流ではよっぽど大事だと思います。やっぱり、素敵な笑顔は万国共通のツールですよ。
児玉/僕は卒論のテーマを焼酎にしたくらいお酒が好きなんですけど、今日はそれに輪をかけてお酒好きな留学生が来てくれています。
僕たちもイベントは久々なので、今日は楽しみますよ!
米焼酎パーティがスタート!
今回は留学生に向けて、3種のしろをご用意
米焼酎の王道でスッキリ飲みやすい白岳しろ、フルーティな吟醸香が特徴なキレの銀しろ、洋酒のような芳しい香りのコクの金しろ
味や香りが異なる3タイプを飲み比べてもらうことで、日本人のわたしたちとの好みの違いを把握できるようにする狙いです。
さっそく、お酒をつくっていこう
「焼酎はふだん飲まないので、つくったこと無いんですよ!」といいながらコップに半分以上なみなみと焼酎を注いでいく渡辺さんと
「入れすぎ、入れすぎ!」とすかさずツッコミを入れる田中さん。
久々のリアルイベントに、参加者たちのテンションも高まっていきます。
みんなで、カンパイ!
お酒も料理も揃って、樋口部長の高らかな乾杯からパーティースタート!
この3年間思うようにイベントを開催できず溜まっていたエネルギーが、空へと舞い上がっていくような瞬間でした。
この日が初顔合わせのメンバーも多く、会話の内容は自己紹介から恋愛話まで満載。米焼酎がパーティーの和を醸していきます。
さあ、最高の形ではじまった留学生×米焼酎のコラボレーション。
ここからは主役の留学生たちに3種のしろを飲み比べしてもらいましょう。
3人の留学生たちが飲み比べ
韓国からの留学生/ジンくん
まず一人目は韓国からの留学生ジン サンウーさん、通称ジンくんです。
-ジンくん、日本の米焼酎飲んでみてどう?
ジンくん/米焼酎は初めて飲んだけど、どれもおいしいですね。白岳しろはスッキリとして飲みやすいし、今飲んでる銀しろも日本酒の香りみたいで新しい味だと思いました。
こっちの金しろもオリジナリティがあって美味しいし…。うーん、一つ選ぶのは難しいですね(笑)。
-韓国ではどんなお酒を飲んでたの?
ジンくん/韓国でも焼酎を飲むことが多いですね。よくマッコリは?って聞かれるけど、韓国ではマッコリは年配の人が飲むお酒になってきてるのであまり飲んでいませんでした。
韓国の焼酎も好きだけど、今日飲んでるお米の焼酎は飲みやすいし味も本当に美味しいです。うーん、どれにしよう(笑)。
タイからの留学生/ヨック
二人目はナッタパン チョムプーシーさん、みんなからヨックと呼ばれるタイからの留学生です。
-ヨック、今日は飲んでくれてありがとう。お酒の味はどう
ヨック/うん、たしかに飲みやすくて美味しいと思うよ。
でも、ちょっと僕はもうちょっと強いタイプのお酒がいいかな。タイではアルコール度数が40度を超えるお酒をストレートで飲むことが多いんだ。やっぱり、それくらい強くないとお酒を飲んだって気にはならないね。
-金しろのロックとかはどうかな
ヨック/あ、これはいけるよ!
コクがあって、しっかり味わいがあるのがいいね。なんかウイスキーとかブランデーに近いのかな。タイにはハイボールの文化もあまりないから、こうやってロックやストレートで飲めるお酒があると嬉しいね。
うん。これは今まで飲んだのより味が濃くて美味しい。
スペインからの留学生/ファンキー
最後に飲み比べるのはスペインからの留学生ファン カルロス ブティエさん。ファンキーのニックネームで親しまれています。
-ファンキー、スペインではどんなお酒を飲むことが多かったの?
ファンキー/スペインでは、ワインとビールがほとんどだったね。
いま飲んでるのはお米のお酒だったよね。全部美味しいけど、僕としては銀しろと金しろにインパクトを受けたかな。どちらにも個性があって、すごく楽しいお酒だと思った。
やっぱりお酒は少しユニークな方が好きかもしれないね。
ファンキー/銀しろと金しろで迷うなあ。しろも美味しいけど少しおとなしめだから、やっぱりこの二つのどちらかがいいね!
じっくり飲み比べてから選んでみるよ。
さあ、ジャッジのお時間です
3人に何度も米焼酎を試していただいて
最終的に下してもらったジャッジが
こちらになります!
ジンくんとヨックは金しろ、ファンキーは銀しろをチョイス!
さっそく、一人ずつ理由を聞いていきます。
-まずは、金しろを選んだ韓国のジンくん
ジンくん/全部美味しかったから、最後まで迷いました。
でも、やっぱり金しろの風味が一番すごくて印象に残りましたね。焼酎のイメージをいい意味で裏切ってくれる味なので、海外の人が飲んでも満足できるお酒だと思います。
白岳しろは初めて焼酎を飲む人に、銀しろはスッキリ飲みたい人にオススメですね。全部美味しかったので、悩みましたよ(笑)。
-次に、同じく金しろを選んだタイのヨック
ヨック/タイではウイスキーをよく飲んでたけど、金しろはその風味と似ていて美味しかったよ。味と香りが深くてすごくいいね。
タイでは風味の強いお酒が好まれるから、金しろが一番人気が出ると思うな。特にロックで飲むと、香りが感じられると思った。
焼酎を飲んだのは初めてだけど、こんなに種類があるなら他のお酒もぜひ試してみたい。
-最後は、スペインのファンキーが感想を教えてくれました
ファンキー/僕は銀しろが美味しかった。というか、驚いたね。
確かに金しろは海外のお酒に少し似ているから飲みやすくて馴染みもある味だったけど、銀しろには海外のお酒にはない個性を感じたよ。香りも華やかでクールだし、スッキリして飲みやすいのもよかった。
せっかく、焼酎を飲むんなら他のお酒と似ていない特徴があるものがいいな。僕は今までにない体験を楽しく感じるタイプだから。
ちなみに日本人学生たちの好みはこちら
留学生とは一転、白岳しろが一番人気に。
しろを選んだ二人に理由を聞きました。
田中/純粋に飲みやすかったです!焼酎をしっかり飲むのは初めてでしたけど、焼酎初心者でも飲みやすいのは白岳しろだと思います。
児玉/やっぱりお米の味を一番感じられるのが、白岳しろですよね。香りと風味のバランスも最高で、さすがメインブランドだなと感じました。
-焼酎初心者と焼酎好きの視点で白岳しろの魅力を語ってくれました
この後、デザートのアイスを韓国式じゃんけん「위바위보(カウィバイボ)」で取り合い…
白岳KAORUをお土産にお渡しして
この日のイベントは無事終了
最後はふたたびのC3ポーズでパシャリ!
熊本大学 C3のみなさん、本当にありがとうございました!
このイベントで見えてきたもの
さて、今回の目的は「米焼酎が海外でブレイクする糸口」を見つけることでしたが、留学生と話して少しヒントを貰えた気がします。
それは「超える」と「ずらす」という2つのアプローチの重要性。
今回タイ出身のヨックは慣れ親しんだお酒に似ているという理由で金しろを支持し、スペイン出身のフランキーは今まで飲んだことがない驚きから銀しろをチョイスしました。
この結果は海外市場でも自分たちが慣れ親しんだお酒をベースとして、それに近いお酒を好む層と全く異なる新しいものを求める層がいることを意味しているのではないか、というのが今回の洞察です。
その上で、ヨックのように慣れ親しんだお酒を支持する人にアプローチするならば、大事になってくるのが「付加価値」。価格・味・ブランドなど、その人のスイッチングコストを上回る価値提供が必須になります。
これこそ、一つ目の超えるアプローチ。相手の土俵で真正面から勝負する戦略です。
そして、このアプローチに成功したお酒こそ、風味のレベルの高さとプレミアム路線で現地商品に競り勝った日本産のウイスキーだと思います。日本の高い品質が世界市場を席巻した一例でしょう。
もう一つが、ずらすアプローチ。メイン舞台の隣に、別の土俵をつくる戦略です。
新しい体験をしたいと思っている層に今までにない全く別のお酒として売り込むこの形態を実現したのが、ユネスコ無形文化遺産である「和食」とセットで日本文化を全面に売り出した日本酒ではないでしょうか。
米焼酎と原料は同じ日本酒ですが、このコンテクストの作り方にこそ躍進の大きな要因が隠れているような気がするのです。
さて、焼酎は今後どんなアプローチで海外に挑戦していくべきでしょうか。
ウイスキーやジンなど強大なライバルの多い蒸留酒として付加価値で勝負していくのか、それとも次なるジャパンブランドのお酒として新たなジャンルを築いていくのか。
いま、大きな戦略的意思決定が求められているのかもしれません。
色々書いてきましたが、いずれの道を選ぶとしても一番重要なのが今回のイベントのような直にお酒に触れる楽しい飲用体験。
楽しい場面で体験することで良さを深く感じてもらえるのがお酒の良いところなので、これからも海外・国内にかかわらず、目の前の一人と常に向き合いながら米焼酎の魅力を丁寧に伝えていきたいと思います。
いやあ、本当に素晴らしいイベントでした。
それでは、また来週お会いしましょう!