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【米からはじまるSDGs】焼酎粕のリサイクル施設「球磨焼酎リサイクリーン工場」に初潜入!日本国内で増える焼酎粕の需要とその中に潜む意外な課題とは

大地から収穫されたお米が焼酎となり、焼酎を造る過程で生まれた焼酎粕が肥料となって、その肥料で育ったお米がまた焼酎へと生まれ変わっていく。

人吉球磨には、そんな美しいお米の循環があることをご存知ですか?

今回、この循環を学ぶために訪れたのが球磨焼酎リサイクリーン株式会社。球磨焼酎を造る中で生まれる蒸留廃液、通称焼酎粕をリサイクルして、家畜用飼料や農業用肥料の原料を製造・販売する中間処理施設です。

この記事では、焼酎粕が辿ってきた歴史や現在の活用方法を学びながら、球磨焼酎ならではのSDGs(持続可能な開発目標)に対する取り組みを眺めていきたいと思います。

「大人の工場見学」in球磨焼酎リサイクリーン

今回、工場見学をしながら焼酎粕のリサイクルについてご説明いただいたのが、球磨焼酎リサイクリーン株式会社の取締役を務める才尾 靖浩(さいお やすひろ)工場長

さっそく、焼酎粕の歴史と現在の処理方法について教えていただきました。

球磨焼酎リサイクリーン株式会社 取締役  才尾 靖浩さん

才尾/この施設では球磨焼酎各蔵から運ばれてくる焼酎粕を処理しています。

施設が出来るまでは海洋処分が主な処理方法でしたが、1996年のロンドン条約を期に産業廃棄物の海洋投棄が原則禁止になってからは、各蔵が自主努力で焼酎粕を陸上処理しようとしていたんです。

ただ、そうした状況では小さな蔵元さんは独自で処理施設を用意することが難しいという背景もあり、2005年に農水省の補助金や日本酒造組合中央会の助成金とともに人吉球磨郡内7市町村と球磨焼酎26蔵も出資して第3セクターとしてこの施設が設立されたんですね。

それでは、実際に処理施設を見ていきましょうか。

原料貯蔵タンク

才尾/まず、こちらが原料貯蔵タンクです。日に数回、各蔵元から焼酎粕が収集されてここに貯蔵されます。ちなみに、2つで140トンの貯蔵が可能です。

このタンクは焼酎粕を保管するだけでなく、絶えず撹拌(かくはん)しています。かき混ぜることによって、焼酎粕の温度を一定に保ちながら腐敗を防ぎ、固形部分がタンクの下に溜まるのを防ぐ役割を果たしているんです。

おっと、噂をしていると焼酎粕が運ばれてきたみたいですよ。

才尾/運ばれてきた焼酎粕はご覧いただいているようにホースで繋いでタンクに貯蔵されていきます。1回の充填にかかる時間は6~7分程度ですかね。そして、タンクで貯蔵された焼酎粕は加工のために工場内へと運ばれます。

次は、中に入ってみましょう。

才尾/初めに紹介するのが、固液分離設備ですね。字にすると少し難しい気がしますけど、要は焼酎粕を固体と液体に分けてくれる機械です。

ここで固体と液体に分けられた焼酎粕は、濃縮液(液体)乾燥品(固体)として畜産向け飼料や農業用肥料の原料となっていきます。

才尾/続いては、濃縮設備です。先ほど見ていただいた、固液分離設備で液体となった焼酎粕がこの機械に運ばれてきます。この機械によって焼酎粕から水分とアルコールが取り除かれ、焼酎粕が一定濃度まで濃縮されます。

この濃度は使用する飼料や肥料の種類によっても適切なパーセンテージが変わるのであくまで企業秘密ですが、何%まで濃縮するかについても管理しながら稼働させています。

ちなみに、この機械で蒸留される焼酎粕に残っていたアルコールもそのまま廃棄するのではなく、エタノール(アルコール)ボイラーのエネルギーとして活用しているんですよ。

エタノール(アルコール)回収設備

エタノール濃度が基準値以下でないと下水処理をすることが出来ないという事情はもちろんありますが、この工場から発生したエネルギーはなんとか有効的に再利用したいという想いを持って取り組んでいます。

あと、現在は焼酎粕を濃縮して販売していますが、将来的には焼酎粕を出来るだけ加工すること無く活用する方法について目下研究中です。

濃縮処理にもエネルギーを使いますし、カーボンニュートラルの観点からも出来るだけ化石燃料を使用しない工場運営をしたいと思っていますね。

焼酎粕の需要増大と球磨焼酎生産量の減少

-才尾さん、工場見学ありがとうございました。ここからは焼酎粕についてお話を聞かせてください。まず、焼酎粕の引き合いって多いんですか?

才尾/引き合いは多いですね。新型コロナウイルスやウクライナ情勢の影響で海外製の飼料や肥料価格が高騰していることもあって、日本国内からのお問い合わせはかなり多くいただいている状況です。

ただ、飼料・肥料ともに安定供給が大事になるので、心苦しいですが今は少量でのご提供は控えていますね。逆に現在当社がメインでお取引きさせていただいているお客様とは混合飼料の研究なども共同で行っています。

稲作などに使われる農業用肥料はもちろんですが、焼酎粕に含まれる良質なタンパク質と脂質が飼料として優れているという研究結果も少しずつ出てきていて、特にお米由来の焼酎粕は家畜の生育にも良い影響を与えていると聞いています。

今後もただ原料を提供するだけではなく、いかに付加価値をつけていくかという部分にもこだわっていきたいです。

飼料や肥料として活用される焼酎粕の濃縮液

-その一方で、焼酎粕を取り巻く課題とはどんなものでしょうか

才尾/1番は球磨焼酎の生産量が年々下がってきて、原料の焼酎粕が手に入り辛くなっていることですよね。

2005年前後は年間で10000トン程度の焼酎粕を処理していましたが、ピーク時を境に毎年10%程度ずつ処理量が減少し、コロナ禍に入ってからは年間3000~4000トンあまりしか処理が出来ていない状況です。

最近ではクリーンで安価な原料としての焼酎粕に注目が集まっているのですが、その根本となる球磨焼酎自体の生産が少なくなってきていることで、正直なところ求められている量に対しては充分に供給出来ていませんね。

人吉球磨の伝統産業・球磨焼酎が盛り上がることで、焼酎粕リサイクルの活性化にも繋がる良い循環が今後生まれていくことを期待しています。

令和2年7月豪雨から感じた課題

令和2年7月豪雨からの復旧作業

-2020年に人吉球磨地域で発生した「令和2年7月豪雨」では、この施設も大きな被害を受けたと聞きました

才尾/洪水によって工場が浸水し、機械の電源が一切入らなくなりました。その期間は、焼酎粕の処理機能が完全に止まってしまったので、各蔵元に焼酎粕を産業廃棄物として廃棄いただくようお願いしました。

復興作業としては、まず掃除から始めて、機械類→建物→下水機能の順番に修理していきました。結局、処理施設として再稼働出来たのは災害発生から1年半後の2021年12月でしたね。機械類のテストはもちろんしていましたが、稼働するまでは「本当に動くのだろうか」と不安な面もありました。

おかげさまで、現在では災害前の処理能力まで無事回復しています。

-令和2年7月豪雨を通じて、感じた課題はありますか

才尾/1つは工場のレイアウトです。工場建設時はここまで大きな水害が起こる事を想定していなかったので、建物の1階に設置されていたシステム機器や計器類も多かったんです。今回の豪雨災害を受けて、プラントメーカー様とも協議し、重要な機器は2階に移すようなレイアウトに変更しました。

もう1つはこの施設への正しい理解ですね。今回取材をお受けした理由でもありますが、水害を期に改めてこの施設の役割を正しく発信する必要があると感じたんです。というのも、工場再生の資金を調達するためにクラウドファンディングにも挑戦しましたが、目標とする金額には届きませんでした。

今回のようにしっかりと工場の役割について説明が出来ていればよかったのですが、クラウドファンディングを行う中でも産業廃棄物という言葉のイメージが先行して誤解を受けたり、中間処理業者としての機能が的確に発信できていなかったりと、情報を正しく伝える事の重要性を痛感しました。

今後も、取り組みを伝える努力をしっかりとしていきたいと思っています。

球磨焼酎リサイクリーンの未来に向けて

-今後、才尾さんが工場を運営されていく中で大事にしていきたいことがあればぜひ教えてください。

才尾/日頃から大事にしている姿勢ですが、「この施設に運ばれてきた焼酎粕は全て受け入れて、全て販売する」という部分にはこれからもこだわっていきたいと思っています。

焼酎粕を納品いただく蔵元様あってこそ稼働出来る施設ですし、売上や利益というよりも、焼酎粕をリサイクルするというミッションを通じて循環型社会の実現に少しでも寄与したいというのが率直な想いです。

あと、全国にはまだ焼酎粕を通じて価値を提供できていないお客様もたくさんいらっしゃいますので、研究や工夫を重ねながらそうしたニーズにも徐々に対応できるようになれば嬉しいですね。

-本日はありがとうございました!

才尾/こちらこそありがとうございました。高橋酒造さんもどんどん球磨焼酎の人気を全国に広めていってくださいね。

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