世界最大の柑橘でおいしさの輪をつなぐ「やつしろサニーサイドファーム」。夫婦で届ける土地の恵みには、地元・八代への熱い想いが込められていた
熊本には、その大きさでギネス世界記録にも認定された果物があります。
それが世界最大の柑橘類として知られる「晩白柚(ばんぺいゆ)」。
マレー半島を原産とする晩白柚は昭和初期に日本へと伝わり、その生育条件にフィットした熊本県八代(やつしろ)市の特産品としてこの地で長く生産されてきました。
そして今、地域を巻き込みながらこの晩白柚をはじめとした八代の恵みを全国へと発信しようとする熱い夫婦がいます。
やつしろサニーサイドファームの桑原 健太さんと茜さん。
晩白柚づくりに取り組んできた祖父の農園を受け継ぐ夫の健太さんが、日々美味しい果物や野菜づくりに挑戦しつづける一方で
結婚を期に単身熊本にやってきた妻の茜さんがTwitterを中心としたSNSでその魅力を発信し、フォロワーとの温かなやりとりで少しずつ自社や地域のファンを増やしています。
そんなやつしろサニーサイドファームが大切にするのが、「おいしい」で繋げる人の輪という創業当時からのミッション。
自社農園の果物を使ったフレッシュジュースを楽しめるキッチンカー製作や
関東圏に八代市産品の魅力を発信するプロジェクト”ヤツシロヤ”の運営
今回は農業にとどまらずその先にいる人たちの笑顔だけを見据えて精力的に活動してきた健太さんと茜さんの二人に、農業に掛ける想いやいま創り出そうとしている未来の地元・八代のかたちを伺っていきます。
農業の世界に飛び込んだきっかけ
--まずは、健太さんが農業を志したきっかけを教えてください
健太さん/昔から祖父が晩白柚を作っていたこともあり、元々農業には関心があって大学も農学部に進学しました。
農業を通じて貧困や飢餓といった地球規模の課題を解決する開発経済学を学んで国際協力の分野に進みたかったんですけど、在学中に出会ったファームステイの経験で価値観が大きく変わりましたね。
農家さんを手伝いながら日光を浴びて土にまみれるうちに、目の前の作物と向き合う農業本来の面白さに惹き込まれるようになったんです。この辺りから、自分の進みたい方向性が少しずつ明確になった気がします。
健太さん/ただ、お世話になった農家のみなさんから「就農するとしても、一度は企業で経験を積んだ方がいい」というアドバイスを受けたこともあって、大学卒業後はまず地元の銀行に就職したんです。
銀行では地元企業を支援する融資業務を担当しましたが、企業や金融の仕組みを直に体験できたことは今の農園経営にも活きています。
ちなみに妻と出会ったのもこの時期で、同じ推しのアイドルのライブやイベントで意気投合して2020年に結婚しました。 僕の想いに寄り添って関東から熊本まで来てくれた妻には本当に感謝しかありませんね。
健太さん/それから4年勤めた銀行を退職して、2022年に「やつしろサニーサイドファーム」を立ち上げました。
祖父から受け継いだ自慢の晩白柚はもちろん、みかん・レモン・パール柑・不知火(しらぬい)・シークワーサーなど様々な柑橘類を手掛けながら、最近ではアボカドやアスパラガスといった野菜にも挑戦中です。
健太さん/手前味噌かもしれませんが、色々な果物を食べてきた中でも祖父が遺した晩白柚は本当に美味しいと確信しています。
大変な部分も多いですけど、自分なりの工夫を重ねてその素晴らしい味をさらに深めながら少しずつ幅を広げていきたいですね。それこそが祖父からこの農園を引き継いだ自分の使命だと思ってますから。
デジタルとアナログをつなぐ面白さ
--茜さんのSNSはとてもユニークで、フォロワーさんたちのやりとりも盛り上がってますよね
茜さん/ありがとうございます。
昔から書くことは好きで、実はnoteでも農家の嫁として日々の出来事や過去の婚活体験を綴らせていただいているので是非覗いてみてください(笑)。
茜さん/子供が生まれてから少し時間ができて、農業の専門知識がなくても何か農園の役に立てればいいなと思ったのがSNSを始めたきっかけでしたね。
手探りながらも自分なりに大切にしているのがポジティブで明るい発信をすること、そして積極的にコミュニケーションを促していくことです。
例えば農家同志で食材をやり取りする機会も多いんですけど、そんな時も自分たちだけで楽しむのではなく、みなさんからいただいた素晴らしい食材を実際に調理してみんなで盛り上がれるように工夫しています。
茜さん/その他にも、一般的には知られていない晩白柚の剥き方や食べ方の動画をYou Tubeで発信してみたり
茜さん/私もあまり得意ではなかった甘夏を美味しく食べるための自作メニューを #毎日甘夏 というハッシュタグでTwitterに投稿してみたりと、画面越しの人たちと対話するようなつもりで発信してきました。
茜さん/こうした発信を続けていく中で一番嬉しかったのが、自然と日本全国の農家さんたちや消費者の方々と温かなつながりができたことですね。
レシピを投稿しても「美味しかった」とか「家でも試してみました」といった嬉しいコメントをいただくことが増えて、デジタル上で生まれたつながりがリアルな関係へと変化していくSNSの醍醐味を日々感じています。
確かに発信が売上につながる側面もありますけど、私にとって大切なのはフォロワーの方々と心通じ合うようなやり取りを続けていくことなんです。
茜さん/私たちのありのままをお伝えしていくことで、取り組みや想いを知っていただいた方々に少しずつファンになっていただく。
こんな変化をじっくりと楽しめるのもSNSの可能性だと思いますし、私の持ち味を発揮できる場所でもあるので、これからも構え過ぎることなく自然体の発信を続けていきます。
「おいしい」で繋げる人の輪
--「おいしい」で繋げる人の輪というミッションにはどんな意味が込められてるんですか?
健太さん/自分たちの創り出す“おいしい”が、最終的にみんなをつなぐ大きな輪のような存在になってほしくてこの言葉を掲げました。
銀行員時代、お客様だけでは解決できないことも外部の人とつながることで乗り越えられた瞬間を数多く見てきたこともあって、自分も農業を通じて誰かの背中を押せる存在になりたいと思ったんです。
健太さん/もう一つは、自分たちも多くの人に支えてもらったからこそ新たな可能性を広げられているという部分も大きいですね。
八代にはSUNABACOというプログラミングスクールの拠点があって、そのコミュニティに集まる素敵な人たちにアドバイスを貰ったり、協力してもらいながら自分たちの想いを一つ一つ実現してきました。
健太さん/例えば、SUNABACOが中心となって立ち上げた八代の特産品をブランド化して首都圏に発信する「ヤツシロヤ」というプロジェクトにも積極的に参加して地域での交流を増やしています。
うちの作物だけをアピールするのではではなく、八代の良さを集結して大きなうねりを作ること。これもまた一つの輪ですよね。みんなで力を合わせて進んでいくこの熱い感じが、僕はやっぱり好きなんですよ。
健太さん/あと、果実の水分だけで作るコールドプレスジュースをキッチンカー販売する事業を立ち上げた時も、クラウドファンディングの活用からブランディングまで多くの仲間たちの知見や力を貰いました。
おかげさまで、いまでは晩白柚や甘夏に馴染みのなかった人にもその魅力を気軽に楽しんでいただいて、ここにもまた新しい人の輪を作ることが出来て良かったと思ってます。
健太さん/若い頃の自分って、社会に変化を与えるためには何かしら大きいことをしないといけないって思い込んでいたんです。
でも大学でのファームステイや銀行員時代の仕事、そして八代での活動を経て、小さな活動でもまずはやってみることでその輪が自然に大きく広がっていく面白さを心の底から体感できました。
小さな試みだとしても、人と人が出会って関係性が生まれ、そこに“おいしい”がつながって新しい価値が生まれていく。こんな世界を実現していくことが、きっと僕たちがこの場所で農業に取り組む意味なんですよ。
健太さん/将来的には農業家として柑橘や野菜を作りながらも、地域コミュニティを取りまとめるような仕事にも挑戦してみたいです。
僕が生まれ育った地元への恩返しにもなると思いますし、自分は八代という土地が生み出した農作物や加工品は本当にレベルが高いと思っているので、その価値はぜひ全国のみなさんにも知って欲しいですね。
やっぱり、この土地が好き
--お二人はノリというかテンションが本当にぴったりですね
茜さん/そうですね。私たちはどっちもポジティブというか行動的なので、そこはめちゃくちゃ合ってるかもしれません(笑)。
健太さん/その上でSNSがあまり得意ではない僕を妻が補ってくれたり、強みと弱みががっちりハマっていいチームワークが出来ていると思います。
--最後はしろのボトルに今後の抱負を書いていただけますか
健太さん/うーん、難しいっすね。こういうの本当に出ないんだよな。どうしよう、なんて書こうかな…。
茜さん/あっ、せっかくだから「おいでよ!やつしろ」とかいいんじゃない!?
健太さん/こんなんで、どう?
茜さん/いい感じだけど、ちょっとまだ物足りないから周りに八代の特産品をイラストで描き込んじゃうね。
茜さん/うん、出来た!
うちの晩白柚や甘夏から塩トマトにイチゴまで八代の美味しいものは全部かいちゃいました、結構いい出来だと思いますけどいかがでしょう!?
健太さん/うん、本当にいい感じ。やっぱり僕たちのベースになるのはここ八代なので、その魅力を今後も真摯につくりながら伝えていきたいですね。
茜さん/現在熊本県内のイベントでもキッチンカーでフレッシュジュースを提供していますので、ぜひ遊びに来てください!
二人/みなさまに会えるのを、楽しみにお待ちしています!