モノが彩る暮らし、酒器で変わるお酒。熊本のクラフト工房「OPEN STUDIO」が手掛ける錫の酒器と過ごした、ちょっと上質な“しろ時間”
熊本市の中心地に位置する、閑静な住宅街。
その一角に、ものづくりの職人たちが静かに息づく森があります。
アトリエ併設型のクラフトショップ OPEN STUDIO(オープンスタジオ)
1979年の開業当時から「生活提案」というコンセプトを掲げ、創作の先にある生活者の暮らしを彩り豊かに変えていく、そんなものづくりを貫き続けてきたクラフト工房です。
そして、今回会いに行ったのがこの工房の店長を務める高光 太郎さん
金属加工を専門とするクラフトマンとして様々なオーダーに応えてきた高光さんですが、その中でも最近人気が高まってきているのが素材に希少金属の「錫(すず)」を用いた製品だといいます。
錫特有の洗練された質感に独特の温かみを重ねる、高光さんの作風。
その優しい風合いを求めて、足繁く工房を訪ねる愛好者も多いのだとか。
今まで触れたことのなかった錫の世界。
一度使った人が虜(とりこ)になってしまう魅力はどこにあるのか。
工房の歴史やものづくりへのこだわりを伺ってから実際に錫の酒器で白岳しろを飲んでみることで、その魅力に迫ることにしました。
「無いものは、つくる」という価値観
-高光さん、まずはOPEN STUDIOについて教えてください
高光/ここは僕の両親が始めた工房なんです。
父の俊信はデザイナーなんですけど、「素材に慣れない」という父なりの哲学をもって10年周期で扱う素材やテーマを変えながらものづくりをしてきたんですよ。今では僕も手伝いながら、一緒になって作っています。
使う素材は本当に様々で、例えば照明を和紙で作ったかと思えば
錫や銅を使った金属製品もつくりますし
最近では、柄がアイスホッケー型になっているほうきや
おしゃれなちりとりなんかもつくってます。これが結構人気なんですよ。
高光/物心ついたときには「無いものは、つくれ」という父の教育を受けていたので、僕も自然とものづくりの世界に進んでいました。
基本的にリフォームとかでも、外注せずに自分たちでつくるのが我が家の暗黙のルールなんです。ちなみに、この螺旋階段も僕がつくったんですよ。
高光/昔から「よし、作ってみろ!」が父の口癖でしたからね。
ありがたいことに道具や材料には恵まれた環境でしたから、父に作れと言われたものは文句を言わずとりあえず何でもつくりましたよ。小さい頃なんかは、自転車なんかも自分で組み立てたような気がしますね。
でも、その経験が今の仕事に活きてるかもしれないです。どんな無茶な注文が来てもまずは「どうやったら作れるだろう」って考えられますから。
金属加工との出会いと素材の変遷
-なぜ、金属加工の道を選んだんですか
高光/学生時代にアメリカ留学したのがきっかけでしたね。留学も自分で希望したというよりは「海外を見てこい」という父の一声で決まりました。
嫌々留学するという変な学生だったんですけど、せっかく留学するなら興味のあることを学ぼうと選んだのが金属加工という分野です。当時流行ってたシルバーアクセサリーをつくりたかったんですよね。
でも、シルバークレイ(銀粘土)という素材が登場してからは作品に個性が出しづらいと感じて、テーマを鉄に変えました。
高光/留学中に鉄の世界にのめり込んで、日本に帰ってきてからも研究を重ねてエクステリアも結構作りましたよ。ちょっと豪勢なお家についてるような扉とか門柱とかですね。
そのあとに本格的に取り組んだ素材が、錫(すず)です。
-高光さんが思う、錫の魅力ってなんですか
高光/まず、道具として使うって意味では熱伝導率が高くてとても冷えやすいので、酒器には本当にピッタリですよ。あと抗菌作用もあるので、花器にしても水を綺麗に保たれて花が長持ちする素材なんです。
初めて錫の酒器でお酒飲んだ人の反応なんかみると面白いですよ。「今まで飲んでた酒と違う!」とか言ってくれますからね(笑)。
あとは、錫ってへこむことはあっても割れないのがいいところですね。へこんでも修理出来るので、長く大事に使える素材なんです。
高光/それと、ものづくりの素材として自由度が高いのもいいです。
熱すればすぐに溶けるので材料を再利用出来ますし、デザインを変えようと思っても加工がしやすくて、自分のイメージを作品に伝えやすいんですよ。インスピレーションを形にしやすい素材と言ってもいいですね。
よくあるんです。そば食べたい時に「そば猪口つくってみようかなあ」とか不意にひらめくことが。そんな思いつきも、思った通りに形にできます。つくり手にとっては、この自由さは大きな魅力だと思いますよ。
愛すべきものづくりのスタイル
-ものづくりに対しては、どんなこだわりをもってますか
高光/こだわりというよりも、好きな仕事のスタイルならありますね。
僕はお客さんとコミュニケーションをとりながら1つのものを作りあげていくことが好きなんですよ。だから、受注製作の仕事が大好きです。
最初にお客さんの要望を聞いて、まずはラフスケッチを作る。ここはイマジネーションの世界ですよね。そして、その後のやりとりで少しずつ本当に欲しいものをお客さんと一緒になって探していくんです。
一人で大工の棟梁をやっているようなこんなスタイルが、僕にとってはたまらなく楽しかったりするんです。
高光/やっぱり、自分の仕事で誰かが少しでも幸せになってくれると思うから頑張れるんじゃないですかね。「美しいものをつくろう」って日々思えるのも、その先にいるお客さんの喜ぶ顔がイメージできるからなんですよ。
僕は道具を使うときにつくった人に思いを馳せることが多いんですけど、僕もお客さんと作品を通じてそんな関係を築きたいですね。
使う人がいてこその、ものづくりだと思ってますから。
高光/実は「OPEN STUDIO」っていう名前にも、全ての人に開放されたオープンな工房でありたいという想いが込められています。
一般的な工房って、結構閉じられた所も多いんですよ。外からは何やっているかよくわからないみたいな。だけど、うちはお客さんでも同業者でもいいものを求める人とは広く交流したいと思っているんです。
お客さんからインスピレーションをもらうことも多いですし、同業者から教えてもらうことも山ほどあるんです。外観は少し怪しげだと思いますけど、ご興味がある方はぜひ立ち寄っていただきたいですね(笑)。
錫の酒器を選んで、飲んでみる
-錫の酒器で焼酎を飲んでみたいんですけど、どんな種類がいいですか
高光/焼酎を飲むんだったら、このコップがおすすめですよ。日本酒とかだったら口が狭くてもいいんですけど、焼酎には氷を入れるんで口が広いほうが使いやすいですから。
高光/あと錫は冷たい飲みものを入れるとすぐに冷えますけど、逆にお湯割りとか熱い飲み物も一気に温度が高くなるので基本的には不向きですので、ご注意ください。ちなみに食洗機も厳禁なので、手洗いでお願いします。
はい。お待たせいたしました。
-高光さん、ありがとうございました!
高光/いえいえ、こちらこそお買い上げありがとうございます。
錫の酒器は初めてですよね。口当たりや味の感じ方が全然違うから、ぜひ飲み比べたりして楽しんでみてください。びっくりすると思いますよ。また感想も教えてくださいね。
というわけで、飲んでみた
さっそく買ったばかりの錫の酒器と白岳しろをセッティング
この時点で、いつもとは違う静謐な雰囲気に
緊張をおさえながら、おそるおそる氷をいれると…
これまた、凛とした佇まいに…
思わず、白岳しろもいつも以上にかっこよく見えてしまう
ここにしろを注いでいくと…
ロックアイスを羨ましいと思えるほど美しい光景が眼下に広がりました
さあ、お待ちかねです
さっそく飲んでいきましょう!
なるほど、なるほど
あ…これはすごいです…
冷静に感想をいうと、錫で飲むお酒は一口で二度感動しますね。
一回目の感動は、コップを持った瞬間です。錫の重みが手に伝わってきて「いまお酒を飲んでる」という実感が手のひらを通じて直接感じられます。この重みだけでも、錫の酒器にしてよかったと十分に思えてしまう。
そしてもう一つの感動が、その温度と口当たりです。
氷でお酒だけが冷えているのではなくて、コップも含めた全体が冷やされることで心地よい冷たさが口の中を通り過ぎます。その口当たりを例えるなら、水源で飲む湧き水のように柔らかく感じるんですよ。
初めて飲みましたけど、酒器が変わる凄さを自らの口で実感しました。これは確かに自分で飲まないと絶対にわからない凄さです…
OPEN STUDIO製の錫酒器、お見事でした!
OPEN STUDIO Instagramアカウント
後日談
ちなみに…初めて錫の酒器で飲んだお酒があまりに感動的だったので、後日お店に伺って自分へのご褒美にハイボール用のコップを購入しました。
ハイボールがキンキンに冷えて泡もきめ細やかになり、毎日の晩酌がグレードアップしております。みなさまにもぜひおすすめしたいです!
さて、今回は酒器をテーマにお届けしましたが、いかがでしたか。
酒器がこんなにもお酒の味を良くしてくれたのは本当に驚きでした!今後もお酒のある暮らしを豊かにしていくアイテムや知識をお送りしていきたいと思います。
それでは、また来週!