女性起業家たちの大きな夢は小さな生き物が起こす農業革命!?焼酎粕を活用した光合成細菌培養キット“くまレッド”誕生までの物語を嬉々として語る米焼酎女子の横顔はやけに輝かしかった
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アメリカのシリコンバレーで生まれた小さなベンチャー企業のテクノロジーは、過去に類を見ない速さで世界の枠組みを変えました。
そして、ここ熊本にも顕微鏡の中に映る小さな世界から農業の未来を変革するために、本気で挑み続ける2人の女性起業家がいます。
この2人が大学在学中に立ち上げた企業こそ株式会社Ciamo(シアモ)
球磨焼酎を造る際に出る焼酎粕を利用した光合成細菌培養キット「くまレッド」を展開し、農業界からも注目を浴びる大学発バイオベンチャーです。
今回は2人の出会いや起業までのプロセス、そして「くまレッド」を通じてCiamoが実現したい未来について伺いました。
光合成細菌培養キット“くまレッド”
農作物の救世主“光合成細菌”とは
-さっそく「くまレッド」について聞きたいのですが、昔からすっごく理科が苦手で…専門用語は優しく教えてもらえると嬉しいです!
古賀/わかりました、頑張ります(笑)。
まず、私たちが作っている「くまレッド」は赤色の光合成細菌とその光合成細菌を増やすための茶色いエサ(培養液)がセットになった商品です。小さな生き物とそのエサを一緒にお届けしているイメージですね。
古賀/光合成細菌と呼ばれるこの小さな生き物は、畑や田んぼで作物に働きかけて生育を高め、品質もよくする効果があります。
さらに、悪臭・根腐れの原因となる田んぼの硫化水素も分解してくれるので、有害物質を減らしながら作物を元気にしてくれるというすごく画期的な微生物なんです。
-そんなに画期的なのに、なぜあまり使われてないんですか?
古賀/コストの問題ですね。
光合成細菌は培養が難しいので、通常の肥料に比べて価格が高いんですよ。
「本当は光合成細菌にチャレンジしてみたい」と考えている農家さんも多くいらっしゃいますが、コスト面で諦めている場合も少なくないんです。
課題解決のカギは“焼酎粕”にあり
-どうやってコスト問題をクリアしたんですか?
後藤/ポイントは最初にお話しした光合成細菌用のエサ(培養液)ですね。
私たちは光合成細菌とエサをセットにして販売することで、農家さんが自分たちで光合成細菌を増やせる仕組みを作りました。キットと水道水さえあれば、簡単に増やせるのがくまレッドの持ち味なんですよ。
そして、このエサの原料に安価で手に入る焼酎粕を使うことで農家さんへの提供価格を通常の半分以下になり、光合成細菌を気軽に試していただけるようになりました。
後藤/ちなみに一言で光合成細菌といっても色んな種類があって、Ciamoでは球磨焼酎粕でよく増えるものを採用しています。この球磨焼酎に特化した光合成細菌を発見したのも、古賀さんの研究成果なんです。
現在も新たな分野でくまレッドを活用できないか引き続き研究中で、少しずつ他産業での応用実績も出てきています。
農家さんと二人三脚で作ってきた実績
-Ciamoのホームページには農家さんと写っている写真が多いですね
古賀/そもそもくまレッドは自社通販サイトから販売をスタートしたんですけど、これがまあサッパリ売れなかったんです(笑)。
後藤/うん…全然でしたね。
古賀/どうしようと思ってたら、商品を買ってくれたある農家さんが「農家仲間に紹介してやるけん、一回来なっせ!」と声を掛けてくれて。それから実際に農家さんの畑に行って、直接くまレッドの使い方や効果の説明からサンプル配布までさせていただけるようになったんです。
古賀/いろんな交流を重ねていく中で、自然とネットワークが生まれて実地実験や講習会をさせていただけるまでになりました。現在では熊本県だけで100軒以上の農家さんと直接的なつながりを持っています。
後藤/この活動を通じて電話注文も増えましたし、なにより農家さんから商品を広げるためのポイントを直に教えて貰えたのがありがたかったですよね。
古賀/競合商品のチラシもよく見せてもらったよね。「あ、この書き方わかりやすい」とか言いながら二人でよく勉強したり(笑)。
-農家さんからはどんな声をもらうことが多いんですか?
古賀/まずは「くまレッドがうまく増えなかった」というお叱りの声ですね。気温などの外部条件によっても培養具合が変わるので、説明書に培養方法を明記してそれでも難しい場合は電話などでフォローしています。
後藤/一方で、お褒めの言葉をいただくことも増えました。ある日農家さんから電話がかかってきて「くまレッドを使って、ここ何十年で一番いい稲が出来た!」というお声をいただいたんです。あれは嬉しかったですね。
古賀/あまりに感激して、電話しながら泣いてたよね?
後藤/泣いてましたね(笑)
古賀/農家さんとのつながりはCiamoにとって貴重な財産でありとても楽しい出会いの場でもあるので、今後も積極的に継続していきたいと思ってます。
2人の出会いから起業までの道のり
きっかけは「起業部」
-そもそも2人はどこで知り合ったんですか?
後藤/私たちが在籍していた崇城大学には「起業部」という部活があって、古賀さんとは起業部で知り合いました。当時古賀さんが大学2年生で私が1年生だったので、8年くらい前ですかね。
古賀/そうだね。でも私たち、はじめはチームもノリも全然違ってたよね?
後藤/私は大学生活に刺激が欲しくて起業部に入ったので、「ビジネスプランコンテストに入賞するぞ!」みたいに血眼になって活動してました(笑)。
古賀さんは社会課題を解決したいって静かに燃えてるタイプでしたよね。
古賀/うん。私はコンテストよりも自分が生まれた人吉球磨を盛り上げたいっていう気持ちのほうが強かったから、同じチームの友達と「ごくりくま」っていう球磨焼酎リキュールを作るところからスタートしたんだよね。
後藤/この“ごくりくま”は300万円くらい売れて、起業部の中でも「古賀さんがエースだ!」っていう雰囲気が生まれてたんです。
私はそんな古賀さんに密かに憧れていましたけど、古賀さんって独特の雰囲気持ってるんでなかなか話しかけ辛かったんですよ!だから、アイドルを陰で推すファンのような心境で日々横目でチラ見していましたけどね。
古賀/なにそれ、初めて聞いたんだけど(笑)!
株式会社Ciamoの誕生
-ここからどうやってCiamoが生まれたんですか?
古賀/大学4年になって“ごくりくま”を一緒に作った友達も就職が決まり、私も大学院への進学が決まっていました。この時期に、次のテーマとして球磨焼酎の蔵元さんから聞いた焼酎粕の課題に取り組もうと決めたんです。
後藤/その年の秋頃でした。古賀さんが突然「資料見てくれない?」って私の所に来たんですよ。資料にはCiamoのビジネスプランが書いてあったんですけど、あまりに画期的だったので一瞬固まったのを覚えてます。
古賀/みどりちゃんは資料とか作るのが得意だったので見てもらいました。そこから自然と2人で取り組むようになって、翌年の2018年4月に株式会社Ciamoとして起業したんです。
お互いの強みと2人で取り組む意味
-後藤さん、古賀さんの強みってどんなところですか?
後藤/古賀さんは普段静かそうに見えるんですけど、これだと思ったことに対してはとにかく情熱的で行動的ですね。研究テーマを変えさせるために教授を蔵元まで引っ張り出したりとエピソードには事欠きません(笑)。
後藤/あと、プレゼンテーションがとてつもなく上手です。
Ciamoは色々なビジネスプランコンテストで優勝しているんですが、古賀さんのプレゼン力が大きいと思っています。くまレッドも古賀さんの研究あっての商品なので、まさに大黒柱ですね。
古賀/褒め過ぎだよ(笑)。
-古賀さん、次に後藤さんについて教えてください
古賀/みどりちゃんは聞き上手で、私もよく相談します。彼女はプラス思考かつ改善体質なので、相談している私が元気を貰うことも多いんです。人間的にとても魅力的で、農家さんへの対応もとても頼りにしてます。
あと、器用な一面も持ち併せてて、資料作成やSNSでの情報発信など私があまり得意ではない分野でも強みを発揮してくれてますね。
Ciamoは私とみどりちゃんの強みががっちり噛み合っている組織なので、どちらがかけても上手くいかないと思います。
後藤/嬉しいですね。ああ、また泣けてきました(笑)。
くまレッドが叶えたい未来
-くまレッドについて、今後の展望を教えてもらえますか
古賀/企業なので売上や利益を求められるのはもちろんですが、やっぱり私の根本には「地域を元気にしたい」という想いがあります。
くまレッドを通じて球磨焼酎の蔵元さんや農家のみなさんに元気を与えられる存在になりたいと思っているんです。また、くまレッドは現在農業だけでなく、エビやメダカの飼育など様々な分野で活用され始めています。
古賀/企業として課題もまだまだ沢山ありますけど、これからも少しずつ研究を進めていくことで全国のお客様の役に立てるくまレッドを提供していくのがCiamoの使命です。そのためにも、現状に満足することなく事業を着実に成長させていかなければいけませんね。
まだまだ忙しくなるけど、みどりちゃんこれからもよろしくね。
後藤/はい、こちらこそよろしくお願いします!わたしも全力で古賀さんと事業全体をサポートしていきます!
-本日はありがとうございました!
後藤/こちらこそありがとうございました。
古賀/普段お互いについて話すことがあまりなかったので、私たちにとってもこれまでを振り返る幸せな時間となりました。また遊びに来てください!