日本全国のお酒を楽しめる穴場スポット「日本の酒情報館」を初取材!國酒の伝道師に本格米焼酎のこれからについて聞いてみた
みなさんは「國酒(こくしゅ)」という言葉をご存知ですか?
白岳しろをはじめとする本格焼酎はもちろん、日本酒・泡盛・本みりんといった日本を代表するお酒の総称で、この国の長い歴史の中で紡ぎ続けられてきた壮大な文化の一つでもあります。
そして、2016年この國酒の魅力を国内外にPRする目的で作られた発信基地が東京・西新橋にひっそりと佇む「日本の酒情報館」です。
全国約1700の酒類メーカーが所属する日本酒造組合中央会が運営するこの施設。館内には日本中の蔵元が造る100種類近くの名酒が並べられ、外部団体とのイベントも数多く開催されてきました。
そんな日本の豊かな酒文化の発信者として、ユニークな展示や企画のコンセプトを仕掛け続けてきたのが館長の今田 周三さんです。
これまで、米焼酎というジャンルを中心に届けてきた白岳しろnote。
今回は今田館長に日本の酒情報館を案内いただきながら、國酒という大きな文脈で本格焼酎の課題や未来を紐解いていきたいと思います。
日本の酒情報館のミッションとは?
--まずは、この施設の目的について教えていただけますか?
今田/当館は日本酒や本格焼酎といった日本で造られるお酒の素晴らしさを国内外に発信することをミッションに掲げています。
その上で大切にするのが「見て・触れて・体験する」というコンセプト。
お酒にあまり詳しくない人でも体感的に楽しめるよう、造りの道具や酒器の展示に加えておすすめの銘柄を気軽に試飲できるようにしているんです。
今田/また館内販売しているお酒も地域や季節といった切り口でテーマを設定して、月ごとにラインナップを変えるようにしています。
やっぱり、人は自分が生まれた場所や親しみのある土地に愛着を持つことが多いんですよ。だからこそ、その土地の風土や季節感が伝わるような手触り感のある銘柄を揃えることも当館の大事な役割なんです。
ちなみに現在14の地域が指定されているGI(地理的表示)を月替りで紹介していて、今月はGI新潟をご紹介しています。
今田/あとは、この場所を起点として日本酒や本格焼酎をアピールするための楽しいイベントも定期的に開催しています。
例えば日本に駐在する海外メディアに向けたイベントではお酒番・多田 正樹さんをお招きして日本酒の燗酒セミナーを開催しましたが、参加者からも非常に好評でした。
そして、本格焼酎・泡盛とクラフトコーラのペアリングイベントもかなり盛り上がって、個人的にも割材としてのクラフトコーラに大きな可能性を感じた素晴らしい体験になりました。
今田/単に知識を提供するだけではなく、五感を使った体験を提供することで来館された方々に日本のお酒を好きになっていただく。
こうしたアプローチにこそ当館の価値があると思っているので、これからも個性豊かな品揃えやイベントを通じて國酒の面白さや醍醐味を伝えていけたらいいですよね。
國酒のこれまでとこれから
--いま私の目の前には「館長の気まぐれセット」という、今田さんおすすめの日本酒をご用意いただいております(笑)
今田/本格焼酎はいつも飲まれていると思うので、たまには別のお酒を飲んでみても面白いんじゃないですかね。
今田/左からスパークリング「山の霞」(山梨銘醸)、純米大吟醸「水尾」(田中屋酒造店)、純米「千代田蔵」(太田酒造)の順で並んでいます。
個性の異なる3銘柄を用意しましたので、まずは飲み比べてみてください。
--久々に日本酒をいただきましたが、どれも美味しいです。いま日本酒は輸出も絶好調で、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いですよね。
今田/海外輸出だけを見ると確かに日本酒は好調のように見えますが、近年国内での消費量は低下傾向にあります。
そんな中で、国内における日本酒の飲み手が増えるきっかけとなったのが2011年の東日本大震災でした。復興支援という文脈で東北のお酒に触れる機会が増えて、その魅力が再発見され始めたんですね。
また、日本酒においては造り手の若返りも見逃せないポイントです。
昔は経験豊富な杜氏や農家から出稼ぎで来る造り手が酒を仕込んで蔵元が売るというスタイルが一般的でしたが、最近では大学で醸造を学んで酒造りと経営を同時に行う若い「オーナー杜氏」も増えてきました。
今田/そうした変化によって自分たちの造りたい酒を自由に造れるようになった結果、味のトレンドも少しずつ変わってきています。
一つ例を挙げると、これまでは酸の強いお酒はいい日本酒として認められにくい傾向にありましたが、ここ十年位は「洋食に合う食中酒」といった側面からもその評価が見直され始めてきました。
日本酒は海外輸出の追い風に乗りながら、いかに国内のこうした兆しを捉えていくかのかが今後の課題となってくるでしょうね。
今田/一方で、本格焼酎は過去の焼酎ブームの後押しもあって順調にそのマーケットを九州以東へと拡大してきました。
ただ、そこから更なる一歩はまだ踏み出せていないという印象もあって、ハイボールやレモンサワーといった若年層に人気のジャンル相手にどう戦っていくかが一つのテーマになってくると思います。
そのためには割って楽しめる本格焼酎の特性を活かして、先ほど紹介したクラフトコーラやお茶、ウイスキーとのWスピリッツなど様々な割材とのペアリングが一つのカギになるのではないでしょうか。
本格焼酎が見据える、成長の道筋
--その上で、本格焼酎は日本酒と比較してまだ世界の市場にはいま一歩踏み出せていない印象があるのですが…
今田/本格焼酎は九州地方の伝統的なお酒で、古くから水割りやお湯割りといった飲み方を中心に楽しまれてきました。
ただ、こうした昔ながらの焼酎スタイルをそのまま海外に輸出しようとしても現地ではなかなか受け入れられなかったのは、どうしても“薄いお酒”というイメージが彼等が慣れ親しんだ飲用スタイルにシンクロしなかったからだと考えています。
欧米ではアルコール度数40%以上のスピリッツ(蒸留酒)をストレートで飲むという文化があるので、元々度数が低い焼酎を割ると現地の人たちにとっては少し物足りない印象になってしまうんですよ。
今田/そうした課題を受けて、日本酒造組合中央会では本格焼酎を海外向けに「王道のスピリッツ」として発信する方向へとシフトチェンジしています。
これまで一般的だった日本食レストランや居酒屋というチャネルからBARやホテルといった新しい提供先の開拓も積極的に進めていて、そのためのカクテルコンペティションなども開催し始めているんです。
今田/本格焼酎の提案先や提供方法を変える戦略には手応えも生まれており、国内でもその動きに共感する人が少しずつ増えてきました。
今田/そのまま飲むことの多い日本酒と違って本格焼酎は割り方も多彩なお酒なので、まだまだ飲み方にも研究できる余地が残されています。
例えば、料理研究家の方々を招いて東銀座・ごち惣屋の布施 知浩さんから「焼酎の炭酸割り」をレクチャーいただくというセミナーを開催したときも、そのあまりの美味しさに深夜2時近くまで意見交換が続きました。
今田/アレンジひとつでその表情を変えてくれるのも本格焼酎の強みですから、今後もその可能性を丁寧に探っていきたいですね。
今田/本格焼酎にも様々な課題がありますが、まずは「自分たちの置かれている状況を正確に把握すること」が最も重要だと思います。
日本酒はそれまで好調だった国内市場がシュリンクし始めてから、その危機感をベースに海外への活路を見出しました。逆に本格焼酎は国内がまだ安定しているからこそ、今のうちに課題を整理することが大切です。
その変化を見極めて自分たちから変化を起こすことができれば、十分世界でも闘えるポテンシャルがあると信じていますから。
この場所から目指す未来像
--今田館長、最後にこの施設が目指す未来の姿について教えてください
今田/これからも國酒の魅力を伝え続けていくのはもちろん、我々が飲み手の皆さんに一つの「モノサシ」を提供できたらいいなとは思っています。
日本の酒の課題として、ラベル情報だけではどんなお酒なのかわかりにくいという点があるんですよね。だから、日本酒を選ぶ方はメディアで取り上げられるような有名銘柄を選ぶ傾向が強いんです。
でも、有名なお酒が必ずしもその人の飲みたいタイプとは限りません。
今田/だからこそ、お酒に詳しくない人でも自信を持って銘柄を選べるような切り口を提示することをこれまでも意識してきました。
地域性、季節性、原料の種類、そして我々コンシェルジュの好みまで。
数え切れないほどの銘柄が存在する國酒の世界でより多くの情報を発信しようとするのではなく、その膨大な情報の中から飲み手の方が「これだ!」と選べるような基準を設けられたらそれが理想の姿じゃないですかね。
これからも館長として、お客様に喜んでいただけるような斬新でユニークなモノサシを日々揃えていきたいと思っています。
--今田さん、本日はありがとうございました
今田/こちらこそありがとうございました。
昔、お酒の仕事をしていた時に白岳さんともお取引したこともあるので、今後も美味しいお酒を造っていただけるよう陰ながら応援しています。
本格焼酎や泡盛のイベントも精力的に開催する際は、ぜひまた遊びに来てください。楽しみにお待ちしておりますので。