ロアッソ熊本を支えた「白岳パックハリセン」の伝道師が語る、1本のハリセンが起こした大きなうねりとサポーターたちの深い絆について
2021年12月5日、熊本のサッカークラブロアッソ熊本はJ2昇格をかけた最終戦を迎えていた。全ての運命が託された1戦を見届けるためにホームスタジアムに集まったサポーターの人数は、シーズン最多の1万人。
この大一番に、多くのロアッソサポーターたちの手に握られていたアイテムこそが「白岳パックハリセン」。サポーター発信で始まった応援グッズで、材料には家で飲み終わった白岳パックが使われている。
今回は、この白岳パックハリセンを伝え続けたロアッソサポーターのりんごさんに取り組みに掛けた想いやその軌跡について聞いた。
ロアッソ熊本、そしてサポーターとの出会い
-りんごさんは、元々サッカーファンだったんですか?
りんご/実家が野球一家で、元々はジャイアンツ一筋でした。サッカーは日本代表の試合を見るくらいだったんですけど、8年ほど前たまたまチケットを貰って友達とロアッソ熊本の試合を見に行くことになったんです。
さらっと観るだけだったはずが、その試合で完全にロアッソの魅力に目覚めちゃいましたね。おかげさまで、今ではすっかり熱烈なサポーターです。
-ロアッソ熊本やサポーターの魅力ってどんなところですか?
りんご/試合は勝っても負けても興奮しますし、最高に楽しいです。でも、個人的にはサポーター仲間との試合外の活動がめちゃくちゃ好きなんですよ。
みんなでスタグル(スタジアムグルメ)を食べたり、試合後飲みに繰り出したりといつも大騒ぎしてます。今はちょっと難しいけど、アウェイ戦では数時間前に乗り込んで現地で白岳パックを飲むのも伝統ですね(笑)。
ロアッソサポーターは「とにかく楽しもう」っていう姿勢が凄いんです。
「白岳ハリセン」が生まれたきっかけ
-そもそも、なぜ白岳パックハリセン広めたいと思ったんですか
りんご/2021シーズンは新型コロナの影響で声を出す応援が禁止されて、みんな手拍子で応援してました。そんな頃、ある友人が手拍子では飽き足らず白岳パックを四角のまま叩いて応援を始めたんです。
その光景は他のサポーターにとっても印象的だったみたいで、あるサポーターさんに「りんごちゃん器用だけん、白岳パックでハリセンでも作ってみればよかたい」って言われたのが私とハリセンの出会いでしたね。
同じ時期にパックでハリセンを作ろうと考えられていたサポーターさんも多くいらっしゃって、私の中でも少しずつハリセンを作ってみたいという気持ちが生まれていました。
「#白岳パックハリセン部」始動
りんご/まずは他のサポーターさんにハリセンを知ってもらいたくて、Twitterで #白岳パックハリセン部 というハッシュタグを作りました。軽い気持ちで始めたんですけど、お祭り好きなロアッソサポーターさんたちが続々と集まってきてくれたんですよ。
りんご/シーズンが進むごとにみんながハッシュタグを盛り上げてくれて、次第に白岳パックハリセン部で各サポーターのマイハリセンや作り方が共有されるようになったんです。
「900mlパックで作るとカワイイね」とか「切る向きを工夫すると白岳ロゴが綺麗に見える」みたいなレシピが集まって、自分だけのデザインやハリセンの強度を自慢し合える情報交換の場になっていきました。
面白いと思って取り組みに乗っかってくださったサポーターさんたちのおかげで白岳パックハリセン部が少しずつ大きくなり、活動に確かな手応えを感じ始めたのがこの頃だったように思います。
拡散の起爆剤となった「ワークショップ」
-その後、白岳ハリセンは爆発的な広がりを見せていくことになります。何が決め手になったのでしょうか?
りんご/やっぱり「ハリセンワークショップ」ですかね。9月後半、ロアッソ熊本が後半戦に向けて「叩いて一緒に闘え!」という企画を立てられました。当初は選手のサイン入りメガホンによる応援が予定されていたんですが、Jリーグの感染予防策の関係で突如鳴り物が禁止になったんです。
メガホンから白岳ハリセンでの応援に切り替えるため、急遽スタジアムでのハリセンワークショップが企画されました。ワークショップはサポーター中心で運営し、多くのサポーターさんがインストラクターとしてハリセンの配布や作り方の実演を担当されたんです。
りんご/私は裏方として参加しましたが、ワークショップではハリセンを作る人から配る人、そして参加者を楽しませる人までサポーターさんたちが各々の役割を持って取り組んでくださったんですよ。
「とにかく楽しもう」というロアッソサポーターの原点や絆の強さを改めて実感出来た素晴らしいイベントだったと思ってます。でも個人的に1番嬉しかったのは、多くの人たちにハリセンを渡す機会を作れたことですね。
りんご/このワークショップをきっかけに、私の中でも「白岳ハリセンをもっともっと広めたい」という想いが湧き上がってきて、作り方をnoteで公開することにしました。ワークショップからちょうど1週間後のことです。
りんご/同じ月に2回目のワークショップが開催されて、11月にはスタジアムにハリセンを自由に取れるブースも作りました。この頃になると、試合中継からもハリセンの音が聞こえるまでに規模が大きくなっていたんです。
白岳ハリセンがもたらしてくれた変化
-2021年シーズンは見事ロアッソ熊本はJ3優勝を決め、J2昇格を果たしました。りんごさんの中でハリセンを通じた変化はありましたか?
りんご/まず、2021シーズンは優勝を果たせて本当によかったです。最終戦前に宮崎で敗けた時はずっと泣いていたんですが、サポーターの皆さんから叱咤されて最終戦当日もスタジアムでハリセンを作り続けていました。
優勝の瞬間はもちろんですけど、最終戦1万人を超えるサポーターのみなさんが白岳ハリセンを使って応援している姿が圧倒的な迫力で、本当にこの活動をやってきてよかったと実感できた瞬間でしたね。
りんご/変化という意味では、サポーターさんとの交流が生まれた事が一番大きいかもしれません。今まで面識が無かった方からも「いつもありがとう」とか「楽しみに見てるよ」と声をかけていただく事が増えました。
また、Jリーグの他チームのサポーター様からもハリセンについて問い合わせを受けることが増えました。新型コロナの影響で延期になりましたが、福島で牛乳パックを使ったハリセンのワークショップにもお招きいただいていたんです。ハリセンが色々な所で新しい繋がりを生んでくれていますよ。
りんご/白岳パックハリセン部の活動が大きくなるたびにメディアでの露出も増えました。NHKのニュースで特集が組まれたり、サッカーブログで取り上げられたこともありましたね。サポーター発信で始めたハリセンが、色々な人達を巻き込んでいる姿を見ると涙が出るほど感激してしまいます。
今後の目標について
-#白岳パックハリセン部の次なる目標を教えて下さい
りんご/目標は「目指せ、ハリセン1万本」です。やっぱり最終戦の光景が忘れられないんですよ。声を出して応援が出来るようになっても、白岳ハリセンとクラップ(手拍子)を組み合わせた応援が熊本を代表する文化の1つとして定着してくれたら嬉しいですね。
2月27日(日)がホーム開幕かつ白岳サンクスマッチなので、まずはこの試合でハリセンを使って思いっきり応援します。
-りんごさん、今回はありがとうございました!
りんご/高橋酒造さんがスポンサーにいてくれることは、サポーターにとっても安心感があるんです。これからも美味しい米焼酎をたくさん造って、ロアッソ熊本を支え続けてくださいね。私も白岳飲み続けます!