“お酒の名前”にはストーリーが詰まっている!?自社の銘柄がどんな想いで名付けられたのか掘り下げてみると、意外と深くて面白かった
自社にとっては当たり前だけど、社外の人にとっては面白い。
そんな物語を発信してみたいと身の回りを探していた時に、ふとアリじゃないかと思ったのが自社で造る「お酒の名前」でした。
“お酒の名前なんてどれも似たり寄ったりでしょ”と思うかもしれませんが、そのルーツを丁寧に紐解くとこれが結構奥深い。
実際、中途入社してから自社銘柄に付けられた名前の由来を知るようになって、いつも飲んでいる米焼酎がより一層美味しく感じるようになりました。飲むのと同じくらい語りたいんですよね、お酒好きって。
この記事では当社の「白岳」というブランド名に秘められた物語をベースに、個人的に大好きな自社商品のネーミングを紹介していきます。
“こんなお酒に育って欲しい”という造り手の願いが込められた銘柄の起源に触れて、いつもとは違う米焼酎の魅力をお楽しみください。
「白岳」の名前に隠された秘密
まずは時計の針を半世紀以上戻しましょう。
まだ白岳というお酒が無かった時代、人吉球磨の霊峰・市房山をモチーフにした市房の露(つゆ)という米焼酎が当社のメインブランドでした。
ちなみに「〇〇の露」というのは球磨焼酎の蔵元でよく使われていたネーミングで、蒸留したアルコールが冷やされてポタポタと落ちてくる様子が露のように見えることから多くの蔵が採用していたといいます。
そんな中、1960年に高橋酒造の3代目(現在は5代目)が他の蔵と違いを出したいという理由からそれまでの名称を一新した銘柄が「白岳」です。
これは私も入社後に初めて知ったのですが、熊本に白岳という山は無く、モデルとなったのは白髪岳(しらがたけ)という山なんですよね。
この白髪岳(しらがたけ)から我(が)を取って、白岳(はくたけ)。
強すぎる個性(我)を抑えることで、誰でも美味しく楽しめるような飲みやすい米焼酎を造りたい。そんな願いを込めて名付けられた白岳の由来は、パック商品の背面にもしっかりと記載してあります。
このエピソードを初めて聞いた時、個人的にとてもシビれました。
「○○の露」という定番の名前を変えてまで独自の個性を表現したいと願う一方で、我を抑えるという方針を商品名にまで反映させた造り手独自の強いこだわりをそこに見たような気がしたからです。
この一見すると二律背反するようにも見える個性の発揮と我の抑制という考え方は白岳のDNAとして脈々と引き継がれ、白岳シリーズを造る上で大切な理念となっていきました。
その後、1985年に当社アカウント名でもある白岳しろが誕生します。
白岳しろのテーマは透明感。原料を高精白米に変えるなど、ロックで飲んで美味しいと感じる透き通ったお酒を目指して造られました。
そうした質感を表現するために当時は「白岳 白」や「白岳 ホワイト」といった案も出たようですが、結局はそのシンプルな響きと柔らかい語感から平仮名の「しろ」に決まったそうです。
白岳の精神に透明感や上質といったテーマを踏まえて名付けられた「しろ」という名前。時代を超えても色褪せないみずみずしさに溢れていて、個人的に大好きなネーミングです。
そして、白岳しろの登場から30年以上経った2019年に白岳シリーズの最新作である「白岳KAORU」がデビューしました。
漢字の白岳、平仮名のしろと来ていた中で、なぜKAORUはローマ字なのか?率直な疑問を造り手にぶつけると、こんな返答が返ってきました。
確かに「かおる」って性別関係なく、どの世代でも付けられている名前なんですよね。白岳KAORUの命名秘話を聞いたのは初めてでしたが、まさかそんな背景があったとは驚きでした。
ここまでご覧いただいた白岳・しろ・KAORUという同じブランドの中におけるネーミングの変遷には、大きな方針の中で新しい価値を発揮しようとする顔の違う造り手たちのこだわりがありました。
ここからはこの記事を書いている私が「このネーミング、いいなぁ」と日頃から思ってきた自慢の商品を紹介していきましょう。
プレミアム米焼酎「待宵(まつよい)」
まずは全麹仕込みという贅沢な造りと28度のアルコール度数で優しく酔わすプレミアムな一本「待宵(まつよい)」を紹介します。
待宵が生まれた背景には、2003年頃から盛り上がってきた「芋焼酎ブーム」がありました。すっきりとした銘柄が中心だった商品ラインナップの新しい顔として、芳醇で濃厚な味わいを追い求めたのが待宵です。
ちなみに待宵というのは満月前夜の月を指す言葉で、翌日の満月を楽しみに待つという意味から「待宵の月」とも呼ばれます。
そしてこの待宵の名前の由来になったのが、こちらの和歌。
平安末期の女流歌人・小侍従(こじじゅう)が来る当てのない男性を夜通し待つ辛さを、共に一夜を過ごした朝の別れの辛さと比べて詠んだ歌です。
芳醇で濃厚なお酒と聞くと、ついつい雄々しい名前を付けてしまいそうですよね。しかし、待宵は逢えない夜にひとり感じる胸を掻きむしられるような心象風景からその味わい深さを表現しています。
コクのある飲み口の中にふと広がる、あでやかで気品に満ちた香り。
待宵というネーミングから感じられる、どこかしっとりとした宵(酔い)の空気と甘い響き。麹をふんだんに使った贅沢でふくよかな美味しさを、ぜひ一度みなさまにもご賞味いただきたいです。
うめぽん&ゆずもん
続いて選んだのは、白岳を代表するリキュール「うめぽん」と「ゆずもん」です。可愛らしいボトルが印象的ですが、ネーミングという意味では色々と示唆に富んだアイテムと言えます。
まずは、何といっても響きがシンプル!
これらの商品のメインターゲットは焼酎を普段飲まない方や海外のお客様ということもあって、名前から伝わる印象やキャッチーな語感でその魅力を届けようとしているんですね。
そして響きがカワイイだけではなく、うめぽんとゆずもんの名前にはこんな秘密も隠されているんです。
なんとリキュールに使われている原料名が組み合わさって一つの商品名になっているんです。この秘密は意外と知らない方も多くて、「えっ!」と驚いたり感動されるお客様もかなりいらっしゃいます。
こうした遊び心やサプライズ要素を名前に盛り込んでいる点も、自社の商品ながら「よく考えられてるなぁ」と感心してしまうんですよね。
理屈と直感、左脳と右脳、ストーリーとインパクト。
「待宵」のようにお酒の味わいと物語が一つのセットになった名称もあれば、うめぽんとゆずもんのように音や語感といった感覚的な面から訴求する名前もあって、ネーミングの奥深さをしみじみと実感させられます。
こんなアプローチの違いが面白いと感じて今回は2つ取り上げましたが、本当はまだまだ語りたい商品の名前が沢山あるので、また機会を見つけながら色々な銘柄の由来をお届けしていくつもりです。
純粋な想いの結晶として
さて、この記事では銘柄の名前にまつわるストーリーを見てきました。
商品の味わい、ブランドの伝統、そして語感や響きまで。様々な名前の由来がある中で、共通していたのは異なる造り手たちがお酒に込めた想い。
「こうしたら売れる」という計算だけではなく、自分たちが造ったお酒への願いや希望をまっすぐに表現したい。そんな造り手の純粋さが垣間見えるからこそ、私たちは名前という物語に惹かれるのかもしれませんね。
昔、造り手と話したときに「自分で造ったお酒は子供のようなものだけん、名前は一番最初に注ぐ愛情よ」と教えてもらったことを記事を書きながら思い出しました。
長い時には、数年という時間をかけて完成する米焼酎。その過程の辛苦や歓喜の全てが、名前の中に表現されているといっても過言ではありません。
ぜひ今夜の晩酌はじっくりとラベルを見ながらお楽しみください。すっきりとして深い米焼酎ならではの味わいとともに、きっと遥か遠くでお酒を仕込む造り手たちの顔がそこには浮かんでくるはずですから。