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書店オーナーが選ぶ“お酒が楽しくなる本”とは。出版不況の時代に生まれた「古本と新刊 scene」はその本棚で人生を彩る出会いの空間だった

これまでの人生で、何冊の本と出会ってきましたか?

総務省の統計によると、日本で年間に発行される書籍と雑誌の新刊総数は約7万冊。この数字を見るだけでも、一冊の本と巡り合うことがいかに運命的な出来事かわかります。

今回扉を叩いたのは、そんな書籍と人々の縁を紡ぐ町の本屋「古本と新刊 scene」です。

足を踏み入れると色鮮やかな表紙が本棚に並び、静寂に包まれる中で自分との対話をゆっくりと楽しめる店内。

普段見慣れない本たちとの邂逅が、日夜この空間で生みだされています。

そして、それまで勤めていた会社を退職して、2022年に古本と新刊 sceneを開業したのが店主の高岡 浄邦さんです。

PROFILE  高岡 浄邦(たかおか じょうほう)
古本と新刊 sceneオーナー/複数の本屋で書店員として働いた経験を活かし、2022年に本屋を開業。本と音楽をこよなく愛する

書店員としての豊富な経験とこだわりを抱えて、本屋の立ち上げや日々の店舗運営と地道に向き合ってきた高岡さん。

開業の際にも店舗の物件探しから商品選定までを全て一人で行い、その道のりを本屋開業日記というnoteで発信してきました。

そんな本屋という仕事に並々ならぬ情熱を傾ける高岡さんに、このたび選んでいただいたのが“お酒を飲みながら読みたい本”です。

ネット販売の隆盛による書店の減少や出版不況という言葉が叫ばれるこの時代にあって、なぜ街の本屋を立ち上げようと思ったのか。

お酒を飲みながら楽しめる本の魅力について語っていただきながら、高岡さんがこのお店で創りたい価値や世界観に迫ります。

本屋を開業するまでの軌跡

--小さい頃から本はお好きだったんですか?

高岡/そうですね、最初は漫画でしたけど。

コロコロコミックやジャンプといった少年誌からガロという漫画雑誌まで。色々と読みながら活字にも触れるようになって、本でも音楽でも主流から離れたジャンルにハマっていったのが学生時代です。

イギリスのブリットポップ、アメリカの独立系レーベルといった音楽に傾倒するうちに、世の中にはメジャーなシーン以外にも面白い作品が溢れていると気づいて色んな表現を覗くようになりました。

自分とは一体何者なのか。そんな答えを探す手段が本や音楽でしたね。大学で哲学科を選んだのも、その一端だった気がします。

高岡/大学卒業後は役所に2年ほど勤務して、25歳の頃にアルバイトでヴィレッジヴァンガードに入社したんです。

当時仕事にあまりポジティブなイメージを持っていなかった自分にとって、物珍しい本や風変わりな人々に囲まれた職場が新鮮で。なにより、商品一つ選ぶにもお店の意志が感じられてとても楽しかったんですよ。

結局ヴィレッジヴァンガードには7年勤めて、店長も経験しました。

それから大手の書店に転職して話題の本や新刊を扱う仕事もしましたけど、店の規模やコンセプトによってお客様の求めるものに違いが生まれることを知れたのは今の店舗にも活きていると思います。

--そんな中、どうして本屋を開業しようと思われたんですか?

高岡/自分には本屋しかなかったからですね。

それまでも小さなイベントに出店したりオンラインで細々と書籍を販売してたんですけど、漠然と過ぎていく日々に「このままでいいのかな」と悶々としてる自分がいました。

そんな中、熊本地震やプライベートの変化もあって2021年に開業を決意したんです。大きな転機を迎える中で本当にやりたいことを自分に問いかけた時、そこにはもう本屋という選択肢しか残ってなかったんですよ。

開業した今でも、自分が理想とする店舗を少しずつ作っている最中です。

高岡/書店を作る上で「本棚」にはこだわりたかったので、本の分類も通常の棚割りではなくてこのお店だからこその偏りをあえて作るようにしました。

あと、開業する際に色々な書店を見学する中で熊本には無いジャンルも多いことを知ったので、当店ならではの商品を並べることで本屋としての個性を打ち出そうとしています。

高岡/そして一番大切にしたかったのが、コミュニケーションです。

単に家から近いお店ではなく「意図を持って足を運ぶ本屋」を作りたくて、お客様とのやりとりをなによりも大事に考えたんですよ。

大変な日も多いですけど、これからもお客様に喜んでいただけるような本を揃えてこの店ならではの縁を紡いでいきたいですね。

専門家が選ぶ、お酒と楽しむ本

--今日のテーマは「お酒と楽しむ本」ですが

高岡/事前にリクエストをいただいていたので、今回は出来るだけジャンルが重ならないような3冊を選んでみました。

それでは、さっそく紹介していきます。

高岡/僕が選んだ1冊目はドイツのGESTALTENという出版社が刊行する「ワイルドサイド 野生に生きる、狩猟採集者たち」です。

高岡/お酒を飲みながらぼんやりと眺めて楽しむ種類の本ですね。

キノコ狩りの達人や野生食材の採集者といった自然の中で生きる人々の横顔に迫ったフォトエッセイで、その営みをダイナミックな写真と文章で楽しめる構成になってます。

高岡/野生って、僕らの生活からは遠い概念じゃないですか。

でも、お酒を片手にページを捲るだけで、これまで知らなかった広大な世界やそこに息づく人々の暮らしに浸れるのがこの本の醍醐味だと思います。

高岡/サイズが大判で写真がメインなので、お酒を飲みながらでも気軽に楽しめるのがいいんですよ。ぜひ一度読んでみてください

さて、次に紹介するのはこちら。

高岡/リトルプレスとかZINEといった少部数発行誌の中でも、最近勢いのある「NEUTRAL COLORS 4  雑誌を仕事にすると決めた運河の畔」です。

高岡/この雑誌はビジュアルと仕立てがとにかく素晴らしくて、特に写真の美しさは他に類を見ないクオリティです。

一般的には使用されない特殊な紙を使用していたり、印刷もオフセットとリソグラフを融合させたりと、雑誌体験の全てを彩ろうとしている至高の一冊ですね。

高岡/ちなみに装丁だけなく、テキストも凄く良いんですよ。

少部数で自分たちの伝えたいことをベースにしているからこそ、そのテーマやオピニオンもダイレクトに胸へと響いてきます。

高岡/紙の手触りからコンテンツまで、これまで抱いていた雑誌へのイメージが覆ること間違い無しです。お酒を飲みながら読めば、よりその世界に入り込めると思いますよ。

そして、最後に紹介するのがこちらです。

高岡/3冊目は歌人・木下龍也さんの「あなたのための短歌集」ですね。

高岡/この本は著者の木下さんが個人のリクエストに対して詠んだ短歌集で、その人だけに贈る作品の特殊性がなんとも面白いんです。

短歌を通じて様々な人生を追体験出来るのが、この本の魅力だと思います。100のお題に対して100首で応えていく訳ですけど、どの歌からもとてもいい味が出ています。

高岡/お酒を飲むときって、少し気持ちがおおらかになるじゃないですか。

そんな時にこの本に触れると、人生の面白さや悲しさがより深く感じられるような気がするんですよ。

高岡/現在と過去。恋愛と別れ。そして生老病死に至るまで、あらゆるテーマについて詠まれた一冊です。

お酒の傍らにそっと置いておくだけでいつでも楽しめるので、ぜひ飲みながら歌に込められた想いに耳を傾けてください。

誰かの「きっかけ」になる場所

--素晴らしい本を選んでいただき、ありがとうございました!いつもこんな風に本を勧められるんですか?

高岡/まずは、お客様の好きなものから聞いていくことが多いですね。

本に限らず音楽や趣味でもいいし、最近気になったことだけでも意外と本選びのヒントになります。フランクに会話しながら価値観に寄り添うことで、その人に合う一冊を提案出来るように心がけてますね。

ここは自然と入店してくるような場所でもないので、ふらっと来たお客様との出会いを楽しみながら日々本を勧めていこうって。

--これから、この本屋で挑戦していきたいことってあるんですか?

高岡/まずはお店を続けること。全てはそれからです。

僕は本好きというよりも本屋という仕事が好きな人間なので、少しでも長くこの商売を続けたいというのが正直な気持ちです。そして、そのためにはお客様に選んでいただけるような本を一冊でも多く揃えないとね。

あと、このお店が誰かにとっての「きっかけ」になってくれたら嬉しいです。この間も一点物のネオンサインの本を買ったお客様から、本に刺激を受けて職人さんに会いに行ったという嬉しい報告を受けました。

こんな風に誰かが一歩踏み出す瞬間を後押し出来るから、本屋ってやめられないのかもしれません。

高岡/このお店を起点に、何かが生まれる。

そんな想いを込めてSCENE(シーン)という店名もつけてるんですよ。今後は本だけでなくコーヒーを絡めたイベントなどを通じて、新たな出会いやきっかけを生み出す場所になっていきたいですね。

うちは日中働いている人でも来店しやすいように平日は18時からOPENしてますので、ぜひ一度遊びに来てください。

素敵な本を揃えてお待ちしております。

店舗情報

古本と新刊 scene
住所
〒862-0954 熊本市中央区神水1丁目2-8 輔仁会ビル 202号室
営業時間
月〜木 18:00〜22:00(祝日の場合は11:00〜19:00)
金〜日 11:00〜19:00
店休日
毎月第1・3金曜日 その他不定休
HP https://scene-books.com/
Twitter @bookstore_scene
Instagram @bookstore_scene
note  https://note.com/bookstore_scene

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