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農場のとれたて野菜で米焼酎を楽しむ!地元の農業と福祉をつなぐモエ・アグリファームが有機野菜で目指す新しい社会のかたち

それは、熊本のある旅行会社様と情報交換していた時のこと。

人吉球磨の観光事情についてお伺いしていると、担当者の方が「あ、そういえば…」と何か思い出したようにこう囁いたのです。

私たちの地元・人吉でいま人気沸騰中の観光スポットって…。

あっ!

もしかして全国的にも有名な「球磨川くだり」ですか?

それとも…

700年以上の歴史を誇る「相楽三十三観音めぐり」とか?

旅行会社様/確かにどちらも人吉を代表する人気スポットですよね。

ただ最近はモエ・アグリファームという農場が主催する農業体験が好評で、参加されたお客様の満足度やリピート率が圧倒的に高いんですよ。

「へぇー、そうなんですか…」

と普通ならここで終わるところですが、そんな面白そうな話を聞いて黙ってはいられないのがnote担当者の性分というもの。

さっそく取材依頼をしたところ、モエ・アグリファームの内山代表から“ぜひ農場を案内させてください”という嬉しい返事をいただいたのでした。

PROFILE 内山  拓也    UCHIYAMA   TAKUYA
株式会社モエ・アグリファーム代表/2019年に農景福幸というキーワードを掲げて起業し、地元の農業と福祉を結ぶ事業を幅広く展開している

当日は小雨混じりの天候にも関わらず、気合充分で集結した二人。

せっかくなので見学だけではなく、実際に収穫を体験した後に農場の野菜をおつまみにして白岳しろを飲む特別メニューを組んでいただきました。

ということで、今回はモエ・アグリファームの農業体験を満喫しながら、内山代表が農業を通じて変えようとしている社会課題を掘り下げていきたいと思います。

農業と福祉がつながる場所

--かなり広い畑ですね。ここでは何を育てられているんですか?

内山/時期によって変わりますけど、いまはズッキーニですね。

うちはピーマンやニンジンといったお馴染みの野菜から、少人数家庭でも食べ切りやすいミニ白菜やミニキャベツのような新しい品種まで、一年を通じて季節ごとの作物を幅広く育てているんです。

あ、これなんか収穫するのにいいタイミングですよ。ズッキーニの株元についたヘタにハサミを入れてみましょうか。

内山/うん、いいサイズですね。

実際にやってみると、農業って本当に楽しいんですよ。最近は旬の野菜を収穫する農業体験を開催してますけど、参加者のみなさんが土にまみれながら笑顔になってくれるのが純粋に嬉しくて。

--この農園のこだわりってどんな部分なんですか?

内山/モエ・アグリファームは創業当時から化学肥料や農薬を一切使わない、オーガニック栽培にこだわってきました。

農林水産省が推進する有機JAS認証も受けていますし、最近はこうした生産への取り組みが少しずつ認められて、大手スーパーのオーガニックコーナーや有名レストランでのお取り扱いも増えてきているんです。

内山/次はモエ・アグリファームのもう一つのこだわりを知ってもらうために、ニンジン畑を見ていただきましょう。

いまこの畑では雑草を抜いて畑全体を整備しながら、うちのスタッフが一本ずつニンジンを収穫しているところです。

内山/せっかくなので、試しに一本ニンジンを抜いてみましょうか。

全く力は必要ありませんので、そのまま引っ張り上げてみてください。

--すごく土が柔らかくて、思った以上にスッと抜けます!

内山/それは農場体験に来た方がみなさんおっしゃいますね(笑)。

有機栽培を進めると土も自然とフカフカになってくるんですよ。その土壌の力を素直に活かしていくことが、オーガニック野菜の醍醐味なんです。

内山/そして、ここで注目していただきたいのが野菜だけではなく、この農場で一生懸命働くモエ・アグリファームのスタッフたちなんですよね。

内山/当社はこれまで「農福連携(のうふくれんけい)」という言葉を掲げて、障がい者の方々と農業を推し進めてきました。

うちの社員は何らかの障がいを抱える人間がほとんどで、各々が自分のできる作業に集中して日々みんなで生産を行っているんです。

内山/農福連携は農業分野での活躍を通じて、障がいを持つ人々が自信や生きがいを持って社会参画を実現する取り組みなんですけど、当社はその長期的な実現のためにあえてオーガニック栽培にこだわっています。

内山/オーガニック野菜と障がい者福祉って別々の要素に見えて、実は根っこの部分で深くつながっているんですよね。

この後はうちの野菜を試食してもらいながら、当社が大事にする農業と福祉の関係についてお話できればと思います。

農場の新鮮野菜を食べていく

農業体験から帰って、さっそくお楽しみの実食コーナーへ。

今回は社員さんにご準備いただいたニンジンの三杯酢漬けをおつまみにして、白岳しろを飲んでいきたいと思います!

まずは、農場でとれたばかりの色鮮やかなニンジンを一口…

あ、いきなりニンジンの甘みがすごい…!

”ポリッ”という小気味よい音と同時に、濃厚な旨味が口の中に広がります。

その瞬間、すかさずしろのロックを一杯…

うーん、この組み合わせはズルい…。

これは旨すぎますって…。

ニンジンの野趣あふれる風味としろのすっきりとした味わいが絡み合って、これ以上ない素晴らしいマリアージュです!

内山/喜んでいただけてよかったです(笑)。オーガニックは簡単ではないんですけど、野菜本来の香りや旨味が本当に凄いんですよ。

やっぱり自分で食べても美味しいなって思いますし、収穫をした後に食べるという体験がより格別なのかもしれませんね。

--内山さんは、なぜ農業を事業化しようと思われたんですか?

内山/モエ・アグリファームって実は農業ではなく、障がい者福祉の観点からスタートした会社なんです。母が特別支援学校の教諭をしていたこともあって、僕には小さい頃から障がいを抱える友人が多くいたんですよ。

僕自身は高校を卒業して色々な仕事に就いたんですけど、その友人たちが就職に苦労していると聞いたことが起業の出発点でした。

当時の人吉球磨は約300名の登録に対して、障がい者雇用の求人は1社だけという状況だったんですね。一方で農業をしていた父からは常に人手不足だと聞いてて、そこにちょっとした矛盾を感じていたんです。

内山/もしこの農業の人手不足と障がい者の雇用不足のアンバランスを解決できれば、みんなが幸せになれる。そう思ってこの会社を立ち上げました。

そして障がいを抱えるスタッフにも十分な対価を提供するために、少量生産でも高い単価で出荷できるオーガニック野菜に絞ることで通常の野菜よりも3倍の利益を出そうと全社一丸となって頑張ってきたんです。

オーガニック野菜って栽培方法そのものに注目が集まりがちですけど、当社にとってはあくまでみんなが幸せに働くための手段の一つなんですよね。

内山/障がいを持つメンバーが自分たちの力を思いきり発揮しながら、美味しいオーガニック野菜を生産・加工して消費者の方々に喜んでいただく。

そんな農業と福祉がしっかりと噛み合ったビジネスで利益を上げていくことで、障がいを抱えるスタッフや家族はもちろん、この社会全体を笑顔にしていくことがこの会社に与えられた使命だと思ってますから。

誰もが幸せな風景を見据えて

--モエ・アグリファームがこれから大切にしたいことを教えてください

内山/スタッフをよく見ること、そして選択肢を増やし続けることですね。

障がいと言ってもその種類から重度まで、決して一つの言葉で定義できるようなものではありません。スタッフの障がいによって合わない仕事もあれば、強みを活かして高い生産性を発揮できる仕事だってあるんです。

だからこそ一人ひとりの障がいを「個性」と捉えて、その可能性を十二分に発揮できる職場を作ることが自分の役割なのかなって。

内山/例えば、最近では自社野菜の生産だけでなく、他農園の有機野菜を袋詰めする作業やミールキット用の野菜加工にも新たに挑戦しています。

座った状態で出来る作業は足が悪い方にとっては貴重な仕事ですし、業務のバリエーションを充実させることで、様々なタイプの障がいと仕事のマッチングをもっと増やしていけるはずなんですよね。

そのためにも、日頃からスタッフのかけがえのない強みや困り事を見逃さないことを何よりも大事にしているんです。

内山/やっぱり農業も福祉も小さな一歩を積み重ねるしかないんですよ。

僕はスタッフと一緒に汗を流して美味しいオーガニック野菜を一生懸命育てながら、その野菜から得た利益で障がいを抱える人たちの雇用が増えていくような大きな循環を作りたいと思っています。

そんな自分の想いを実現にするためにも、お客様とスタッフが笑顔になれるような新しい事業を生み出し続けていくつもりです。

内山/そして、最終的に実現したいのが「農景福幸(のうけいふっこう)」という当社が創業から大切にする理念です。

単なるビジネスではなく、農業を起点に健常者と障がい者が手を取り合う豊かな関係を構築することで、ここ人吉球磨から古き良き農村の風景を取り戻していくことが僕たちのミッションなんですよ。

いまは道半ばですけど、これからも自分たちの農業で美味しい野菜と幸せな景色を日本中へ届けられるように頑張りたいですね。

--内山さん、ありがとうございました!

内山/いえいえ。普段ここで米焼酎を飲まれる方はほとんどいらっしゃらないので、今日は僕たちも本当に楽しかったですよ(笑)。

これからまた季節が変わるごとに色々な野菜が収穫できるようになってきますので、ぜひまたお酒片手に遊びに来てください!

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